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映画観客鑑賞録

【さわだきんたの映画観客鑑賞録】第19回 遠藤麻衣子の実験映画を見に来た客

日本の学生は授業で積極的に手を挙げてくれない、などというのは大学講師が昔から言う定番の愚痴だが、はたしていつからそうなってしまったのか、映画観客もまた同じ問題を抱えている。昨年カナザワ映画祭に足を運んだ時のこと、事前には告知されていなかったのだが急遽海外作品の各上映回で監督とビデオチャットを用いた舞台挨拶がセッティングされ、せっかくだからと観客からも質問を募ったのだが、手を挙げる人間どの回でもほとんどゼロ。自身の監督作を見た観客の反応がこれでは作り手としては多少なりともショックだろうと気の毒に感じたものだった。

こうした場面は日本の映画館では珍しいものではないらしい。近年応援上映も推し活ブームなどもあり再び盛り上がりを見せているようだが、概して日本の映画観客は映画を少し厳粛に見過ぎるきらいがあり、そのためか映画監督に対しても一歩引いて下から見上げ、そんなそんな私ごときが監督に質問など畏れ多い・・・と萎縮してしまう。よく新作映画のプロモーションで来日したハリウッド映画監督に好きな日本料理はなんですかみたいなつまらないことを聞く雑誌新聞の記者がSNSでは叩かれたりするが、なにも質問がないよりはどんなに下らなくてもなにかしら質問をしてもらった方が登壇者としては報われた気分になるのは基本的に間違いがないのだから、質問を振ってもし~んと静まりかえる日本の観客よりも雑誌新聞の記者の方がなんだかんだやるべきことをやっているのだ。

だが観客の手が挙がったからといってその場がハッピーになるとは限らない。あれはなんというタイトルだったか、数年前に遠藤麻衣子という現代アーティストの実験映画が渋谷のイメージフォーラムで上映されたときのことだった。監督トークショー付きの効果もあったのか実験映画には珍しくこの回はほぼ満席。映画の内容は実験映画であるからなんとも形容がし難いが、現代アーティストによる作のためか様々な奇抜なオブジェが登場してそれなりに楽しめるものではあった。さて映画が終わって監督とたしか配給の担当者によるトークショーに入る。海外を拠点に越境的な活動を行っている遠藤麻衣子はさすがその手の人だけあって物怖じするところがなく言いたいことはズケズケと言うサバけたタイプ。笑ったりは全然しない。トークの内容は覚えていないがやはり海外のアート業界でサバイバルするにはこのくらいの神経の太さが必要なのだろうな、と思ったことは覚えている。

ひとしきりトークが終わって質疑応答に入るとまず手を挙げたのは独り言のようにモゴモゴ喋る謎の上から目線オッサンであった。論旨の不明瞭なその長々発言を要約するに、言いたいことを直接的に表現しすぎてちょっとねぇ、そこだけはもったいなかったねぇ、とのこと。その「言いたいこと」をオッサンは数分間に及ぶ質問の中で一言も説明しなかったのでアンタほんとにわかってるんかいなと心の中で苦笑いであったが、物怖じしない遠藤麻衣子は呆れたようにオッサンから目をそらし「あ、そっすか」これが正確な表現であるかは怪しいが、テイストとしてはだいたいこんな感じの素っ気ない受け答えであった。

・・・キレてない?ちょっとだけキレてない?知ったかぶったバカなオッサンからウエメセ説教されてぶっちゃけムカついてない?心なしか客席、にわかに緊張する。しかしその空気の中で手を挙げる猛者が前衛映画の殿堂である渋谷のイメージフォーラムには存在した。今度の質問者はオバサンである。「映画を見て、今どういう気持ちになったらいいのかわからないんですけど・・・どうしたらいいですか?」多少言葉を選んでいるが言わんとすることは明白だ。「お前の映画、わけわかんねぇ」。たしかにわけのわからない映画だった。前衛映画だからわけがわからなくてもおかしくはないが、わけがわからない映画を二時間ぐらい映画館の椅子に拘束されて見たら苦痛に感じる人も少なくはないだろう。笑いもなく好奇心もないその突き放すような口調からすれば明らかにオバサンはこの映画を楽しめてはいなかった。

はたして遠藤麻衣子はこれにどう答えるというのか。さっきは通気取りのオッサン客だったからバカじゃねぇのみたいな感じだったが前衛映画に慣れていないオバサン客に対してはやはり多少やさしくなるんだろうか。「外、走ってくればいいんじゃないですか?なんかそのへん、映画館の周りとか」。いやキレてるだろこれ!半笑いで答えていたが絶対これ理解力のない観客に対する苛立ちからの半笑いだろ!「あぁ、そうですか、走ってくればいいんですか」とか仏頂面で返したオバサンもこれキレてるだろおい!

遠藤麻衣子のズケズケ態度が一部の観客に高慢と受け取られたこと、そして映画がわけわかんなかったこと、加えて遠藤麻衣子も観客に対してへりくだることがなく、トーク相手の人にも監督と客の間に入って場を和ますようなスキルがなかったこと、それになにより日本の映画観客が質疑応答に慣れていなかったこと・・・こうした様々なことが合わさって悲劇が生まれてしまったのだろう。あまりにも気まずい。こんなに気まずい質疑応答はこれ以前にも以後にも見たことない。

映画がつまらなかったらつまらなかったと素直に言えばよかったんじゃないだろうか。その上で、どうしてつまらなかったか感情的にならず論理的に説明すれば、監督との対話のひとつも生まれたかもしれない。いやそこまで高度なことは言わないが、なんかほら、あそこのシーンのあれが意味わかんなかったんですけどあれなんなんですかみたいな、質疑応答のときの質問ってそういう素朴なやつとかでいいんじゃないのかな。監督の好きな映画はなんですかとか。そういうね、そういう観客としても場を盛り上げて映画のアフターを一緒に楽しむっていう・・・そういう能力が本当に足りないな日本人は!なんで誰も質問しないか監督とケンカになるかの二択なんだよ!

初対面の人間と対等な立場で会話を楽しむこと。つくづく日本人はそれが苦手なのだなぁと思い知らされた事件なのでした。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Twitter→@eiganiwaka