MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

あの映画のあれ

【あの映画のあれ】あれ6 『キャリー』とかに出てくる「プロム」

アメリカのスラッシャー映画の定番シチュエーションといえばプロム。高校生が卒業を祝って行うめでたいプロムの場で人知れず高校生たちが殺されていく・・・なんて光景はこれまでに3万回ぐらい見たような気がします。プロムがアメリカのホラー映画において惨劇の場として定着した背景にはスラッシャー映画誕生前夜1976年に公開されたオカルトホラー映画『キャリー』があると思われます。当時日本でもヒットし大きな話題を呼んだ『キャリー』のクライマックスはプロムに招待された薄幸の超能力少女キャリーがついにいじめっ子たちの仕打ちにブチキレてプロム会場を超能力で破壊しまくるというもの。こんな文化は日本にはないですからリアルタイムで見た人たちはほへ~アメリカはんにはゴージャスな風習があるもんじゃな~なんて思ったかもしれません。ということで今回はアメリカの主にホラー映画でよく目にはするもののぶっちゃけよくわかんないプロムについてネットで5分ぐらい調べたのでまとめてみましょう。

まずプロムとは何か。英語で書けばProm、これはPromenade(プロムナード)の略。ダンスパーティなどで参加者が行進することをプロムナードと言うそうなので、それが語源と思われます。内容は基本的にアメリカのホラー映画とかに描かれている通りで、高校生が卒業記念として行うもの(厳密にはこれはシニアプロムと呼ばれ、卒業前年の学期末にもジュニアプロムと呼ばれるものが開催されることがあるそうです)。プロムの目的は高校生が卒業して大人の仲間入りをすることのお祝いなので、参加者は男子ならタキシード、女子ならドレスなんかで大人風にめかし込んで、だいたい高校の体育館がそうなってる派手な飾り付けのされたプロム会場で音楽流しまくって踊る。そして宴の最後にベストカップル的な感じでプロムキングとプロムクイーンを投票なんかで選ぶ。最近はおそらくそうでもないのでしょうが伝統的なプロムでは男子が女子(実は在学生じゃなくてもいいらしい)を招待して二人で行かないと会場に入れないので、キャリーのように常に一人行動の人には完全に縁が無い陽キャ特化のイベントと言えるでしょう(というわけで完全アウェーに呼ばれてしまったキャリーは悲惨な目に遭うのでした)

ホラー映画の中ではバカなヒップなイベントというイメージのプロムですが、その歴史は意外と古く、一説によれば19世紀後半の北米には既に存在していたようです。本国イギリスではプロム文化が根付いたのは2000年頃だそうなので発祥はよくわからないものの、イギリスの伝統から切り離されたアメリカとカナダの開拓民たちが、伝統的なお祭りの代わりに新しく始めたものなのかもしれません。日本における盆踊りなどのように、娯楽の乏しい時代にはプロムで憂さ晴らしという側面もあったんじゃないでしょうか。プロムは1930年代に入ると卒業アルバムに載るようになり、これにより正式な(?)高校の恒例行事となります。そのためプロムは何もバカな陽気な高校生たちが勝手に盛り上がってるわけではなく、学校側や保護者も衣装や会場の準備などに協力するそうです。こうした点で似ているのは日本の成人式なのかもしれません。アメリカやカナダのプロムではときに女子のドレスはたいへん高額になることもあるそうですが、日本の成人式でも晴れ着はやはり高額なものです。

それにしても、男女ともにフォーマルな衣装に身を包み、基本的には男子が女子をエスコートしてペアで入るプロムとは、かつては大人の仲間入りを祝すと同時に大人の自覚を促し、大人ならいずれするべきと考えられていた結婚式の予行演習のような意味合いもあったのかもしれませんが、価値観の多様化している現代ではなんだか全面的に古くさく感じられます。別に法律で決まっているわけでもありませんし細かなルールなんかは時代に合わせて諸々変わっているのかもしれませんが、それでもInstagramに華やかなプロムの写真が溢れ、メリル・ストリープやニコール・キッドマンが出演したNetflix映画『ザ・プロム』が製作されるなど、今もアメリカ・カナダを中心にプロム人気が衰えていないのは不思議。なんだかんだアメリカやカナダの男女観は保守的ということなのかもしれませんし、それ以上に、なんだかんだアメリカやカナダは陽キャの国ということなのかもしれません。そうと思えば、『キャリー』を筆頭にプロムがホラー映画の惨劇の場となった1970年代後半から1980年代というのは、あんがい多様な価値観を称揚するリベラルな空気が漂い、陰キャが陽キャよりも輝いていた時代と言えるのかもしれません。

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com