【推薦ポエム品評会】第9回『ディックス!! ザ・ミュージカル』品評会
著名人による新作映画の推薦コメント。それは今や洋画宣伝に欠かせない要素であり、ときにビジュアルやあらすじよりも強力に見る者の鑑賞意欲を喚起する。こうしたコメントは宣伝であるからして、それがどんなにつまらない映画でもあからさまに貶すようなものはない。しかし、とはいっても書くのは人間。コメントを頼まれたはいいが褒めるに褒められない、しかし頼まれた仕事は断れない。そんなこともあるだろう。また逆に、あまりにも映画が面白すぎて冷静にはコメントすることができない。そんなこともあるだろう。
そこに、ポエムが生まれる。商業と芸術、仕事と趣味、理性と感情のせめぎ合いの末に生み出される映画宣伝の推薦ポエム。宣伝の役目を終えれば誰に顧みられることもなく忘れられていく推薦ポエムを、確かに存在したものとして記録に、そして記憶に残す。そのために品評を行うのが本コーナーである。
A24といえば今やアメリカ映画界最注目の独立系スタジオ。芸術性と娯楽性を見事に両立させた品質第一のスタンスはコアなファンを世界中に生み、昨年も現代アメリカ内戦というセンセーショナルな題材を描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が大きな話題となった。
そのA24初のミュージカルを謳うこの映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』、日本版予告編を見ると・・・なんとピー音の嵐。これまでのA24作品といえばお上品で真面目なイメージがあったものだが、いったいこれはどういうことなのか。今回は謎のベールに包まれた『デイックス!! ザ・ミュージカル』の推薦ポエムを品評したい。
※引用はすべて公式サイト https://transformer.co.jp/m/dicksthemusical/comment/ より
ミュージカルの濃厚な歌詞がここまでスッと腑に落ちるのセイでしょ〜。
レイザーラモンHG(芸人)
愛があればフォー!!
まさかの人選に度肝を抜かれた。レイザーラモンHGである。かつてニューヨーク・アンダーグラウンドスタイルのハードゲイキャラで一世を風靡したものの、世の人権意識が高くなると共にテレビから姿を消し、今では相方レイザーラモンRGの遠く後塵を拝しているあのレイザーラモンHGがまったく思いがけないところで帰ってきた。ポエムは必ずしも内容ではない。誰がいつどこで吟じているか、これがポエムの大きな価値となるのである。内容に関しては何も言っていないに等しいが、まったくもってフォー!!なポエムである。
欲望の皮をムけ!お下劣な裏筋に潜む、ピュアでチャーミングな家族ドラマにほっこり、もっこり♡大事MANなのは愛だろ、愛っ。
益子寺かおり(ベッド・イン)
圧倒的にバカバカしく愛おしい…吸った揉んだの大暴走クィア・ムービー!
中尊寺まい(ベッド•イン)
波の数だけ?ノンノン、ピー音の数だけ抱きしめて!!!
下ネタ上等の平成バブル擬態デュオ、ベッドインのお二方によるポエムである。「欲望の皮をムけ!お下劣な裏筋に」などしょうもない下ネタポエムとしか言いようがないが、十八番のバブル期ネタをしっかりと織り込みつつ二言三言で映画の魅力をキャッチーに伝えるその手腕は、流石である。
とにかくカオスで、クィアで、しょうもなくて、笑える!
竹田ダニエル(ライター)
今まで観てきた中で、最も意味不明な『ミュージカル映画』。
あなたの身の回りの『ヤバい友達』にもきっとおすすめしたくなる!
とにかく下品!不適切!悪趣味でアクが強い!
ビニールタッキー(映画宣伝ウォッチャー)
でも「周りからどう見られても愛は愛だ」と高らかに歌い上げるサイテーでサイコーでハッピーなミュージカル!
竹田ダニエルとビニールタッキーの推薦ポエムは奇しくも「とにかく」の巻頭句が被ってしまっている。とにかく二人のポエムを見てわかるのは、とにかくこの映画がカオスでクィアでしょうもなくて笑えて下品で不適切で悪趣味でアクが強いということである。とにかく言えることは、おそらくこの二人は曲者揃いの今回の推薦詩人たちの中では圧倒的に常識人だった、ということだろう。だからとにかく、なんとなく言っていることが被ってしまうのである。しかしながら、常識人目線の推薦ポエムとして、とにかく水準には達していると言えるだろう。
“男と女の美しい愛”“伝統的な家族の形”
ドリアン・ロロブリジーダ(ドラァグクイーン)
優雅で洗練された言葉たちが織りなす、道徳と規範に溢れた名作です。
ウフフ。
近年の映画宣伝には良い意味でも悪い意味でも「騙し」が少なくなったように感じられる。本当は怖いホラー映画なのに怖くないよ♪とでも宣伝しようものなら、怖くないと思って映画を見に行った粗忽な観客の不満がSNSで拡散され、炎上沙汰に発展する可能性すら考えられる当世である。しかし、映画はなんといっても水物であり、したがってその宣伝にもある程度のハッタリ、そして「騙し」が生じることは避けられない。そうした時代にあって配給各社は怒られないギリギリの「騙し」宣伝を模索しているように思われるが、ドリアン・ロロブリジーダのこのポエムはこれまでのポエムから察せられる映画の内容からすれば、完全に「騙し」の一線を踏み越えるものだろう。ネット怒られを恐れぬその勇気が光る推薦ポエムである。
久々の開催となった推薦ポエム品評会。今回は総じてレベルが高く、かつ意外性や独創性に富んで、甲乙付けがたいものがあったが、それは一編の推薦ポエムを除いて、であった。
ァリェナィ 正直問題(笑)
アレン様(大物・マダムタレント兼生きる幻)
ヮタクシ、映画はこれまで莫大なる数を観てきましたが、こんな映画観た事もございません!!!(笑)
似たストーリーや構成も、他に思い付かない程、ある意味狂気すら感じる………(笑)
㌧でもない映画ザマス(笑)
思ゎず!食いついて観てしまう中毒性が㌃(笑)
唖然・茫然とはこの事!!!
次々と予測不可能な奇天烈展開に最後まで目が離せなくなるザマス(笑)
とにかくァンタ達にはこのハチァメチァを、トットコ体感して欲しいゎ…(笑)
A24史上もっとも奇怪な映画かもしれない『デイックス!! ザ・ミュージカル』。だが奇怪度で言えばアレン様によるこの推薦ポエムも決して劣っては、いや、というよりも、おそらく映画よりもこちらの方が奇怪だろう。念のため申し上げておくが上のポエムは原文そのままであり、誤植などは一箇所もない。ヮタクシも推薦ポエムはこれまで莫大なる数を観てきましたがこんなポエム観た事もございません。今回の文句なしの特選にして、推薦ポエム史上に残る怪作と言えよう。