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博多ゾンビ紀行

【博多ゾンビ紀行】第4回 もし映画の主人公が何もしなかったら?『リビング・デッド サバイバー』は引きこもり向けゾンビ映画

どうもこんにちは、ハカタという者です

僕は今までなぜゾンビものを観るのか?ということについて「観づらくなる前に観るため」だとか「ジャンルの限界を知るため」だとか色々言ってきたが一番大事なものを忘れてたぜ!「面白いものを観るため」だ

今回紹介する『リビング・デッド サバイバー』はポスターとタイトルだけ観ると普通のB級アクションゾンビ映画だが、その中身はなかなか渋くそれでいてジャンルに新しい視点を与える傑作だった。

まずこの映画がどういう映画かと言うと、元カノがいるパーティー会場のアパートに借り物を返しに行った男が、ふと部屋で居眠りをしている内にゾンビパニックが発生し、世界が崩壊してしまう。
それを知った主人公は外にいる家族や友人を助けるために立ち上がり世界を救う術を探そうとする・・・などということは一切せず。パーティ会場のアパートにひとり引きこもり続ける・・・
という一風変わったあらすじから分かる通り、「もしゾンビ世界でただ一人取り残されてしまったら?」という問いをとことん突き詰めて描いているゾンビ映画だ。

冒頭の「知ってる奴がいないパーティーで1人待たされる」というシーンが象徴するようにこの映画のテーマは「孤独」
普通のゾンビ映画なら外に家族がいるから助けに行こう!みたいな感じでストーリーを展開させるところだが、先ほど述べた通りそういうイベントは全く無く主人公は徹底して外界とディスタンスを保ちステイホームを守る方を選択する。
ゾンビものを観ていて「なんでこいつら危険なのにわざわざ外出するんだよ・・・」と思ったことがある人にこそピッタリな話なのではないだろうか

助けも来ず、全く状況が改善される気配もない中ただただ独りで籠り続ける毎日
外を眺めたり、趣味の音楽に耽ったり、エレベーターに引っかかったゾンビに話しかけたり・・・
そんなゾンビ禍の日常をアクションも台詞も少なめで淡々とストイックな演出で描く渋〜い映画だ。

「もしゾンビパニックが起きたら自分ならどうするか・・・」ということを考えたことのある人は多いと思うが、実のところマッチョ主人公のようにズバズバゾンビを倒し生き残るようなことは出来ず早々に死ねればまだ良い方で、孤独に篭り続け発狂するのがオチなんでないか・・・とここ数年で思わされた人も多いだろう。そう考えると「もし自分だったらどうするか?」というシミュレーションとして一つの正解なのではないかと思わされる映画だった。2018年製作ながらとても鋭い視点の洞察がある映画だと思う。

そんなテーマの映画だが、ジャンルとしての面白さをしっかり捨ててないというところも好感が持てる。
まず導入部分はあっさり目ながらジワジワとした見せ方に工夫がありツボは押さえてあるし、何より狭い空間の中から資源を探して生き残るサバイバルものとして面白い。ゾンビメイクもしっかりしており、ストーリー上の必要最低限ながらグロ描写も手ぬかり無しだ。手が無い個体など化物としての個性がちゃんとあるのがうれしい。
ゾンビの大群が襲ってくるシーンもなかなか見応えがあるのだが、特筆すべきはゾンビ特有のヴァ〜という感じの呻き声が無いところで、それによって今作のゾンビにはある種の静謐な非人間的な不気味さが生まれているのが面白い。

この映画で「孤独」と共に描かれるもう一つのテーマが「内に籠り続けること」「変わらないこと」の辛さで、主人公は閉じ込められたとは言え食糧には困らない状況であり、それは不幸中の幸いと言えるかもしれないが、それは後半になってくると「外に出ない良い理由」となってしまい呪いのように主人公につきまとう。
外出しない良い理由があるためずっと内に籠っていることが正しいとなってしまった人間はずっとずっと籠り続けてしまうのだが、人間は内に籠り続けて平気でいられるほど強く出来てないことの方が多く渇きは日々強まる。そんな人間の葛藤をゾンビや音楽(趣味)と言った様々なモチーフを使い表現していくのが巧いぜ。

そんな主人公の生活や葛藤にもある1人の人間の登場によってある変化が・・・とここからは実際に映画を観て確認してほしい

このように『リビング・デッド サバイバー』哲学的な問いかけがジャンル的にも鋭い視点を与えるような面白さに合致している希有な傑作と言える映画だと思う。

こういう映画があるからゾンビ映画漁りはやめられない。そういう訳で僕は今日も玉石混合のゾンビ映画沼を孤独に突き進み続けるのだ・・・

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