MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

博多ゾンビ紀行

【博多ゾンビ紀行】 第18回『江南ゾンビ』ブラックはつらいよ。

どうもこんにちは。ハカタです。

本日は今現在公開したてホヤホヤなゾンビ映画を紹介したい。それは江南ゾンビだ。大した衝撃展開があるわけでもない映画だが、今記事少々ネタバレ気味なのでそこら辺を気にする人は気をつけてもらいたい。

この映画がどういう映画かと言うと・・・中国からの荷物を盗もうとした泥棒がいたが、そこに紛れ込んでいた明らかになんかに感染してるっぽい凶暴化ネコちゃんが襲われる。それに噛まれた泥棒は人肉を欲するようになり仲間を喰い殺してしまう。(一応言っとくとこれ以上のウイルスに対する掘り下げはない)そんな泥棒が放浪の末になぜかとあるオフィスビルの周辺に現れ・・・

そんでそのオフィスビルには元テコンドー選手な主人公が働いてる映像制作会社がある、という訳なのだがこの主人公の働いてる会社がマジでろくでもなかった!
映像制作会社とは言うものの、その実やっていることはしょぼいドッキリ動画をYouTubeに投稿しているだけでチンケなYouTuberと変わらない。そんなんで儲かる訳もなく、ビルの賃料は全然払っていないし、給料も未払いだし、なんならウォーターサーバーの水代も払ってない。

でこの映像会社の社長がこれまた酷いやつで女社員、今作のヒロインなのだがその女性に対してセクハラまでする。そんなヒロインに主人公はもっと抵抗すべきだと言うが、しかしヒロインはキャリアのためにそれは出来ないと言う。社長もそれをわかった上でやってるんだろう。卑劣〜!
そんなクソ社長にビルのオーナーが賃料を迫るものらりくらりと退けるのだが、そのビルオーナーも警備員にことあるごとにケチをつけ「ビルの価値が下がるだろ!」とパワハラしまくりでろくなもんでないという地獄!
そんなブラック群像劇がゾンビ(一体のみ)の進行と並行して描かれるのが序盤である。

さてそんなゾンビがいなくても地獄なビルにゾンビがやってきて阿鼻叫喚のさらに地獄に!それを見た主人公が警察に通報しなきゃ!と言うが、ここでビルオーナーが絶叫する!

「やめなさい!!!!そんなことしたら人死にが出たという噂が広まってビルの価値が下がるでしょ!!!!」

なんたる隠蔽精神!!!!!これには○ッグモーターもビックリ!!!!

その超絶隠蔽精神により通報は阻止され、主人公たちは孤軍奮闘ビルの中でゾンビ相手に戦うしか無くなってしまうのだ。いやこのレベルの被害の隠蔽は無理だろ!と隠蔽の雄ことビッ○モーターも叫びそうなレベルだが、とにかくそういうこととして話は進んでいく。
とまあそれでも安全なところへ籠もってればまだ良いなものの映像制作会社の社長が提案する。「このパニックの映像撮れば再生回数激増するじゃん!!!!」なんたる安全コンプライアンス皆無な思考回路!!!!

そうやって危険地帯へわざわざ足を運ぶというような行為の繰り返しの後、案の定ゾンビが一行に迫り大変なことになるが、そこで社長はなんと部下を盾にして逃げる!!!!なんたる社員切り捨て!!!!これにはビッグ○ーターもビックリ!!!!

とこのように今作はありとあらゆる局面でブラック企業の辛さが沁みる、それはもう虫歯でかき氷を食べた時のように沁みわたる展開が繰り返されるのだ。

これは一見テキトーなマクガフィン(キャラを動かすための要素)作りに思えるし、まあ実際そうだと思うけど、しかしそこにはある一定の世界観が隠れているように見える。
ウイルスの正体は特にこれと言って掘り下げられず正体はよくわからないまま。ゾンビの被害は広まるがそこには大きな陰謀も誰かへの悪意もない。ただただ一人一人の、特に権力者の卑俗な思考による浅はかな行動によりどんどん世界が悪くなっていく・・・

この構図、ここ数年でかなり頻繁に見た構図だとは思わないだろうか?

我々は何らかの物事などに対して何か「物語」や大きな悪意というものを見出してしまいがちだし、そういう思考が陰謀論に繋がったりする。しかし実際に一つ一つの事例を見てみれば、案外そこにあるのは考えが浅いが欲は深い故の愚行が積み重なっただけのことだったりするものだ。そもそも大きな陰謀をできるほど有能な人間なんかそこら辺にはいない。
そんな「物語」化への警鐘を「物語」が捨象されたような大した話のない脚本で表現している!・・・というのは流石に言い過ぎにしても、そういう世界観が手癖みたいなマクガフィン作りの中で表出していったように思えるのだ。

さてここで公平を期すために今作の評価を言うとそんな面白くない。まず初っ端からゾンビを出してしまう、序盤の時系列を弄ってしまうというゾンビものでやってはいけないことをしてしまっている部分については目を瞑るとしても(僕は目を瞑るのがものすごく得意だ)、全体的にかなり安いし、映像制作やコロナ禍等々の要素が霧散する脚本も上手くないし、空間を生かしたシーンとかもない。ゴアが全くないのも悲しい。

でもまあ主人公のテコンドー要素があるアクションはちょっと面白くて、特にブレイクダンスゾンビとテコンドーの勝負はなんか珍妙で良かったりする。しかしテコンドーがメインウェポンであるが故にゾンビをなかなか倒せないという妙なカタルシスの無さはいかがなものか!?
しかしまあとにかく出せるだけゾンビを出しまくろうという気概は感じる映画だ。へぼい空間にそんな多くないエキストラで、パンデミック感を出そうとはしている。

そんで面白いのが、あのセクハラ社長がまあ案の定ゾンビになってしまうのだがそいつがヒロインに迫ってきた時やたらネッッットリとした触り方をする。衝撃!セクハラゾンビ!セクハラは死んでも治らないというわけか!?もちろんその社長は撃退される。セクハラ野郎にはNOを突きつけろ!!!!

とそこまで面白いわけでもないがそれなりに良い部分はある。普通に見れるラインの作品となっている。まあこんなもんでしょうと。

とにかく、僕が思ったのはこういうどうでもいい作品のどうでもいい展開の羅列、普通なら見過ごされてしまう展開の中に、現代人であるがこその、今の世界をどう捉えているのかが滲み出るものなのではないかということだ。それもまた、ゾンビものの魅力だと思う。

それはそうとやたらとエンドロールが遅くて長かった。本編はブラックだが、制作側の方はクソ遅いエンドロールでスタッフの名前をじっくりと見せつける、労働者権利に厚い会社だというわけだ!!!!素晴らしい!!!!
決してエンドロールで少しでも尺を稼いで80分台にギリギリ乗せるようにスローにしたわけじゃないぞ!!!!!絶対だ!!!!!

7月29日現在新宿シネマカリテ、カリテファンタスティックコレクションにて上映中。8/7(月)の上映がラスト。気になる方は行ってみては?

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

博多には行ったことがない パラッパラッパーで全ての感情を表すアカウント→ @goodbye_kitty3