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映画観客鑑賞録

【映画観客鑑賞録】第9回 『ONODA』の客と『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』の客

火事と喧嘩は江戸の花とは言うが、火事はさすがに勘弁してもらいたいとしても、映画館で見る観客同士の喧嘩というのも中々風情があって良いものだ。なにせ観客同士の喧嘩は家で配信やらBlu-rayやらで映画を見ていては決して起こりえない映画館特有のイベント。もちろんそこにはせっかくの映画が台無しになりかねないという負の側面もないではないが、というよりも普通はその側面しかないだろうが、まぁ、だからこそこうして拾い上げてあげたいという気持ちもあるのだ。

最近見た映画館喧嘩でとりわけ強い印象を残したのは『ONODA 一万夜を越えて』上映後のこと。場所はTOHOシネマズ日本橋で、まさかそんなハイソな場所のシネコンの、しかもこんなアーティーな映画で観客喧嘩が勃発するとは思ってもみなかったので、上映終了後に突如場内に響き渡る男女の怒号に面食らってしまった。

「何度も何度も蹴るんじゃねぇよ!」
「そっちこそ喋ってんじゃねぇよ!」

どうやら夫婦で来ていた初老の男性が上映中に妻と話をしていたことに腹を立て、その後ろの席の中年女性が初老の男性の席を蹴っていたらしい。子供の喧嘩か。喋る方も喋る方だが蹴る方も蹴る方だし、いくら蹴られたからといって怒鳴りつける方も怒鳴りつける方なら、怒鳴られたからといって喧嘩腰で食ってかかる方も食ってかかる方だろう。張りつめる場内の空気。その2人は結構前の方の入り口近くの席だったので帰ろうにも帰れない他の観客たち。みっともない口喧嘩は続き、やがて決定的な言葉が双方から出てしまう。

「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよこのキ○ガイ!」
「キチガ…なんてこと言うんだこのハゲ!」

いや子供の喧嘩か! 一体なにが2人をここまでヒートアップさせたのだろうか。やはり戦争映画だからだろうか。『ONODA 一万夜を越えて』は静かな映画だが、終戦後もその現実を受け入れられず、やがて狂気と暴力に染まっていく小野田寛郎の姿を容赦なく描いた苛烈な映画でもある。小野田の狂気に感化されたのか。戦場のストレスに参ってしまったのか。その答えは一万夜を越えた先にあるのかもしれない…。

シネコンでの観客喧嘩は規律がゆるく観客の多様性に富むミニシアターや名画座での観客喧嘩に比べれば希少ケースであり、それも先行上映などというイベントでの観客喧嘩となれば更に珍しい。ふつう、先行上映にはその作品をいち早く見たい熱心なファンが集まってくるので、上映中はスクリーンに集中して喧嘩をしている余裕などないはずだ。しかし、新宿ピカデリーの先行上映で確かに観客喧嘩は発生したのであった。残念ながらかなり離れた席での出来事だったので詳細は不明ながら、喧嘩を収めようと従業員が数人割って入り、喧嘩当事者が場内を出て外で従業員と話をした(と思しい)のち、当事者の一人が上映途中で座席に置いてあった荷物を持って帰ってしまったか、もしくは帰らされてしまったので、シネコンの観客喧嘩としては相当トラブルレベルが高い喧嘩だったようだ。

驚くのは喧嘩よりも喧嘩の発生した際の上映作品。これがなんとグザヴィエ・ドランの『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』だった…。ドランの新作の先行上映にわざわざ来るような客が喧嘩の末に上映途中で帰るとは思わない。ジョン・F・ドノヴァンの死の謎よりもミステリアスな観客喧嘩なのであった。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。ツイッター@eiganiwaka