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底抜け映画再審理

【底抜け映画再審理】第4回 被告:『ターミネーター3』

前回の更新から随分と時間が経ってしまいましたが、さて今回のお題は『ターミネーター3』です。みなさんご存知の『ターミネーター』シリーズですがその中でも3。3ですから当然2からの続きですね。

今さら言うまでもないようなことだとは思うが『ターミネーター2』といえば押しも押されぬ傑作SFアクション映画である。年間100本とか映画を観るようなマニア層だけでなくそんなに劇場へは行かないライト層、そればかりか評論家や映画業界で働いているような人たちに「人生のオールタイムベスト映画は?」と聞いてもこのタイトルを挙げる人はそこそこいるのではないだろうか。かくいう筆者も子供の頃に『ターミネーター2』と『バックトゥザフューチャー』の1と2を見たことが映画原体験的なところがあるので無論『ターミネーター2』は大好きである。なんならとんねるずのコントの『タカミネーター』も好きである。いや今のテレビ業界であれだけ予算をかけたパロディコントは…いやそれはどうでもいいか…。まぁとにかく2に限らず初代もだが『ターミネーター』というシリーズは非常に大ヒットした人気作であった。それまでは『殺人魚フライングキラー』とかいうタイトルを聞いただけでダメだこりゃとなるような映画を撮っていたジェームズ・キャメロンを一躍スター監督に押し上げたし、まだ『コナン・ザ・グレート』くらいでしか知られていなかったシュワルツェネッガーを世界的な大スターにしたのも『ターミネーター』である。もしかしたらというか、割と真面目に『ターミネーター』シリーズがなければシュワルツェネッガーは州知事にはなれなかったかもしれない。また、AIの反乱やタイムパラドクスというSF好きには当たり前だったような要素を広く普及させた面もあるだろう。

ちなみにウィキペディアによると初代『ターミネーター』の興行収入は約8千万ドルで『ターミネーター2』が約5億2千万ドルである。この人気の跳ね方は凄い。それを受けての今回のお題である『ターミネーター3』なのだから当時の期待値というものはすごかった。実際俺も超期待していた。1と2の興行収入を紹介したのでついでに3の方も記載しておくが数字としては約4億3千万ドルである。あれ? 結構いいじゃん、と思った方が多いのではないだろうか。そう、結構、というか余裕で大ヒット映画なのである。しかしそれほどの興行成績にも関わらず、いやそれだけ多くの人が観たので“だからこそ”と言うべきなのだろうか『ターミネーター3』の評判は芳しくない。試しにグーグルで検索してみたらサジェストが“ターミネーター3 ひどい”とか“ターミネーター3 なかったことに”とか“ターミネーター3 黒歴史”とかそんな散々な感じである。

いやちょっと待てよと言いたい。確かにシリーズ最高傑作とか言う気はさらさらないがそこまで酷い映画ということもないだろう。リアタイで観た当時の自分の記憶でも結構よかったという印象がある。だけど面白いことにウケなかった理由というのもよく分かる映画ではあるんですよね。先に結論を書いてしまうと『ターミネーター3』という映画の面白い部分とつまらない部分というのはどちらも同じ箇所であるという、そういう何ともやるせない映画だと思うんですよ。

その面白い部分とつまらない部分というのはいくつかあるのだが、まずは公開された時期に注目してみよう。『ターミネーター3』の公開は2003年である。その当時にもっとも勢いがあった映画として『ターミネーター』と同じSFアクションというジャンルの映画である『マトリックス』シリーズがあった。俺は本作とハシゴした記憶があるがほぼ同時期に『マトリックス リローデッド』が公開されていたはずだ。『マトリックス』シリーズといえば仮想空間が舞台になっているという当時基準ではあまりピンとこない設定もあるが、何と言ってもバキバキにケレンの効いたCGをはじめとしたVFX技術で新時代の映像体験をもたらしてくれたということがもっとも特筆される作品であろう。さらに『マトリックス』シリーズだけでなく本コラムでも第一回に取り上げた『ファイナルファンタジー』(2001年)などがあり、新たな映像表現の可能性としてのCG映像というものに対する期待がとてつもなく高かった時代でもあった。そのような期待と共に『マトリックス リローデッド』と同時に映画館でかけられていた『ターミネーター3』なのだが、正直言ってこちらの方に新しい映像体験というようなものはなかった。前作『ターミネーター2』に続いてCG処理などもそつなくこなされてはいるが、想像を越えるほどの新しい映像というものは『ターミネーター3』には無かったのである。これはリアルタイムで本作を観たかなり多くの人が持ったガッカリポイントなのではないだろうか。

だが本作の面白い部分もそこなのである。要所要所でCGも使ってはいるがアクションの大部分は昔ながらの80年代の職人的な撮影技術で撮られているというのが『ターミネーター3』の特徴の一つとして挙げられるだろう。特に冒頭から数回に分けて大きな見せ場があるカーチェイスは相当練られたプランの元に実車を走らせて撮影していると思われるので正直今見直しても驚嘆に値する。確か印象的に使われているクレーン車は撮影中に一度転倒してしまったというアクシデントがあったが代わりを用意できなかったので何とか修理して撮影を続けたという逸話があったはずだ。また、作中の時間軸に出てくる一番最初のまだ人型ではないプロトタイプとでも言うべきターミネーターもCGではなく実物が作られていたはずである。これは特に根拠のない俺の妄想なのだが、おそらく2が当時レベルでの最先端のCG技術で作られたのに対して3は原点回帰的な泥臭さを感じるようなアクションで行こうというプランがあったのではないだろうか。だがそれは映画だけでなくテレビゲームの分野などでも想像以上に日進月歩するCG映像の進化に対して客が期待していたものではなく、制作側と受け手側との間で見せたいものと見たいものとのギャップが激しく乖離してしまったのではないだろうか。まずそれが本作がウケなかった部分の一つ目である。

そして次も時代に関係することではあるが『ターミネーター』という作品は明らかにキリスト教的世界観における終末思想を取り扱った作品である。作中でそのものズバリ「審判の日」というワードが使われるのだからそこは疑う余地はないだろう。そしてシリーズ第一作目が1984年(偶然だろうが示唆的な公開年だ)の公開でありその世界観の基調となる“核戦争によってもたらされる現世界の崩壊”というのは明らかに当時の冷戦構造を念頭に置いたものだと思われる。2が公開されたのは91年でソビエト連邦が崩壊した年だ。まさに『ターミネーター』という作品は当時の世紀末感と終末思想、そこに審判の日などのキリスト教的要素をぶち込んだ非常にタイムリーな作品だったのである。では肝心の『ターミネーター3』はというと上記したように2003年の映画である。ソ連の崩壊から10年以上が経ち、しばらくは不穏だった世紀末ムードも払拭されてほぼ完全に冷戦構造が消失した時期に公開された映画なのだ。世紀もまたいでしまったのでもう世紀末感もない。そしてその世紀をまたいでから本作の公開までに起きた出来事の中でもっとも大きな出来事だったのは当然、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロであろう。世界の対称性が崩壊したあの出来事の後で未だに冷戦構造を引きずった世界観の本作が80~90年代の頃のようにウケなかったというのは当然であろうとも思われる。その点においても『マトリックス』とは非常に対照的だ。そしてアクション面と同じようにそこもまた本作の面白いところである。

前作2でスカイネットやターミネーターが生まれる可能性を潰したはずなのにまたもや未来からやってきた殺戮者に対してジョン・コナーは驚きを隠せないのだが、作中での説明としては「核戦争は回避されたわけではなく、ただ予定が狂って延期されただけで審判の日はいずれやってくる」ということが言われる。これは続編を作るための苦しい言い訳であると共に、どうせ人間は同じことを何度も繰り返すだろう、という醒めた視点でもあると思う。米ソの冷戦構造は崩壊したからもう二度と同じようなことは起きない。2023年現在のアメリカとロシアを見ていても本当にそう言えるだろうか。まぁぶっちゃけ、そこは今見ればというだけで当時は単に物語の引き延ばし的な理由だけでそうなったというところはあるとは思うが!

でも古いスタイルで撮られたアクション面にしても焼き直しになっているだけのように思えるストーリーの展開にしても、ある意味では普遍的なアクション映画なのだと思うんですよね。時代には付いていけなかったかもしれないが骨太なアクション映画としての面白さは十分にある映画ですよ。そして『ターミネーター』として見るならキャラクターの描き方がどうかという、そういう不満もあるだろうがジョン・コナーが前作の美少年ぶりと比して冴えない青年になっていたことも上記した面白さとつまらなさが同居している部分だと思うんですよね。審判の日を止めるという作品内の物語の性質上、作中の時間軸では英雄としての描写が成されないジョン・コナーという人物はその部分においては神話性から抜け出して人間の世界で生きようとする人物のように見える。2のときの約束された英雄ではなく、うだつの上がらない一人の人間に見えるんですよね。そこもまた面白さとつまんなさが同居するところで、この『ターミネーター3』という映画は本当にそういうところが面白いですよ。

公開当時にそういう観方はできないだろうという部分もあるかもしれないですけどね、でもまぁ少なくとも今見れば『ターミネーター3』という映画にはそういう面白さがある。これはもう完全に面白い映画としか言いようがないので再審理としては『ターミネーター3』最高! 超面白い! ですね。

しかしこれ書きながら思ったけど、世間ではイマイチとされてる映画の再審理という本コラムのテーマでいけば『ターミネーター3』以降のシリーズ作全部当てはまるな…。凄いことに気付いてしまった。今後、このコラムに『ターミネーター』シリーズが出てきたら俺がネタに困ったということですね。ちょっとこれは禁じ手として封印しておくか…。

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