なんと『マンハッタン・ベイビー』の3枚組ソフトである！『マンハッタン・ベイビー』の3枚組！長年ルチオ・フルチといえばゴア描写がすごいだけのバカという完璧に不当なイメージが定着していた（※今でもあまり変わってはいない）日本ではおそらくとりわけ評価が低かった血の出ないフルチ映画『マンハッタン・ベイビー』がまさか3枚組でパッケージ化される日が来るとは・・・さすが海の向こうの人たちはわかっているなぁ！でもIMDbのユーザー評価を見たら2023年7月23日現在で平均4.8（10点満点）だったからそんなことはなく海外のフルチ好きの間でもやっぱ『マンハッタン・ベイビー』は血が出なくてつまらないという評価が一般的なんだろう。そんな状況でも3枚組を出すメーカーの意地に脱帽である。何がお前らを駆り立てたんだ。

さて3枚組の内訳はというと同内容のDVDとBlu-rayにサントラCDをコンパイル、ジャケットに踊る3枚組の文字を見てどんなに特典を積んだんだと胃がひっくり返ったが蓋を開けてみればわりと普通サイズの特典量でした。インタビューはフルチ映画の代表的作曲家ファビオ・フリッツィ、それまでちゃんとした映画を作っていたフルチを良い意味でも悪い意味でも冥府に突き落とした脚本家ダルダーノ・サケッティ、この二人はフルチ映画ソフトの特典インタビューの常連だが加えて『マンハッタン・ベイビー』では途中でコブラに殺される人の役で出演しているコジモ・シニエリのインタビューもある。フルチ映画には端役でよく出ている人とはいえちょっと渋めの人選という気もするが、別にスターとかホラーアイコンみたいな人が出ている映画でもないから順当か。

他、フルチ研究本Beyond Terror: The Films of Lucio Fulciの著者インタビュー、劇場予告編、ポスター＆スチル、文字のびっしり詰まったブックレット、『マンハッタン・ベイビー』のサントラ主要曲を組曲化してフリッツィが指揮するスタジオ・ライブ（聴き応えあり）。インタビューでフリッツィも語っているが『マンハッタン・ベイビー』は撮影途中で予算の大幅縮減および展開変更を余儀なくされた不遇なフルチ映画であり、終盤の編集が少しちぐはぐなところからも欠番シーンの存在が推察できるが、期待した未公開シーンもしくは絵コンテ集などは残念ながらなし。とはいえ『サンゲリア』や『ビヨンド』ならいざ知らず『マンハッタン・ベイビー』の特典としてはこの普通サイズでも多すぎるぐらいじゃないでしょーか。

映画本編はKがたくさん付くマスターとかでもないらしいので（それでも映像はさすがに鮮明）本編や映像特典よりもやはりサントラがこのソフトの目玉かもしれない。かもしれないというか『マンハッタン・ベイビー』は国内盤DVDも持ってるのでサントラが欲しくて買ったようなもの。同じくフリッツィがコンポーザーを務めたフルチ作『ビヨンド』や『地獄の門』の音源を流用しているぐらいなので『マンハッタン・ベイビー』のサントラ曲目は少なく、以前SPOだったと思うがフルチ映画の国内盤DVD何枚買えばフルチ映画サントラCDプレゼントという太っ腹すぎる企画をやった時には『サンゲリア2』のサントラCDは13曲ぐらい入ってるのに『マンハッタン・ベイビー』の方は他のフルチ映画サントラとカップリングで主要2曲のみという寂しい収録内容だった。しかしこの3枚組に付くサントラ盤は完全版である。完全版といったところで収録曲の半分ぐらいは主要2曲のアレンジみたいなものなのだが、それでもフリッツィのフルチ映画サントラの中でも屈指の美しいメロディを持つこの逸品、従来のフルチ映画ではミニマムな音作りを行っていたフリッツィだがここでは音数を増やしてプログレ的な展開を見せ、中近東楽器も取り入れた彩り豊かなサウンドが実に浸れる。

『マンハッタン・ベイビー』本編についても少しだけ触れておくと、いやぁこれはすばらしいじゃあないですか！サケッティのオカルティズム志向とフルチのシュルレアリスム趣味がよくわかんないピラミッドのレーザービーム発射などを乗り越えて見事に融合！一にも二にもフルチは空間造形の才能がすごいと俺は言い続けているので、マンションの室内空間をあの手この手その角度どの角度から様々に切り取りライティングや小道具配置の一つ一つにフルチの美意識が見える『マンハッタン・ベイビー』は駄作どころかむしろフルチ映画の中でもかなり美しく完成されたアートな映画だと断言したい。そのうえサントラにだってうっとりさせられるわけですからね！幻想味が強くホラー映画として刺激が足りないという意見もわからないではないが、まぁ、やはりね3枚組ソフトが出るだけのことはある映画なんですよ、『マンハッタン・ベイビー』は！