MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.28 『The Norman J Warren Collection』を買った

新世代のホラー映画ファンなのでノーマン・J・ウォーレンという監督の名前を知ったのは実はつい最近のことだった。リニューアル前の渋谷TSUTAYAにはVHSのコーナーがあり、そこにこのボックスセットThe Norman J Warren Collectionに収録の原題Terror、邦題『ギロチノイド』のビデオがあった。こんないかにも血の出そうな邦題の映画を借りないわけにはいかないので期待など微塵もせずに借りて見るといやこれが面白いこと面白いこと、いったいこれを撮ったのは誰なんだとそこでノーマン・J・ウォーレンの名前を知り、あー『悪魔の受胎』の監督か!と頭の中で点と点が線になる。その後、ビデマでウォーレンの最高傑作と思われる『タイム・ワープ・ゾーン』のソフトを買い、これがまた面白い映画であったからウォーレン株はもううなぎ登りである。

しかし日本語でノーマン・J・ウォーレンと方々検索してみると出てきた結果は意外なもの。ウォーレン、どうやら日本ではポンコツ監督として知られているらしかったのだ。たしかに『悪魔の受胎』はチープでショボイ『エイリアン』の亜流作だが、とはいえあっちこっちで人が死ぬしあんまり意味なく爆破シーンとかもあるしなかなか見所の多い映画だと思っていたので、日本でのこの低評価はいささか解せない。そのことをビデマ店主さんに言ってみたら「やはり『人喰いエイリアン』ですよね」とのこと。なるほどそういうことか。このボックスセットに収録されているPreyが『人喰いエイリアン』の邦題で知られる映画だが、見たことがなかったので見てみると、これはこれで面白いのだが邦題から想像されるような血みどろ映画では全然なかったので、それを期待してかつてのビデオバブル期に『人喰いエイリアン』を見てしまった人ならウォーレンをポンコツ監督と認定するのも当然だろう。これはジェス・フランコやルチオ・フルチにも言えることかもしれないが、ビデオバブル期にノーマン・J・ウォーレンが発見されてしまったことは、幸運であると同時に不幸なことでもあったようだ。

さてこのThe Norman J Warren Collectionはウォーレンのキャリア前半のホラー作品を4作品収録したもの。収録作は『ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象』の邦題で日本ではテレビ放送だけされたらしいSATAN’S SLAVE、『人喰いエイリアン』ことPREY、『ギロチノイド』のTERROR(邦題盛ったなー)、そしてお馴染み『悪魔の受胎』、原題INSEMINOID。発売元はStarz/Anchor Bayなので画質・特典ともに良好で、各作に30分ほどのメイキング・ドキュメンタリーというか、ウォーレンを含めた関係者インタビューなんかが付いている。ウォーレンをポンコツ監督として認知していた日本のホラー映画ファンが見ればまずこの仕様だけでコペルニクス的転回なのではないだろうか。

まず『ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象』だが、それまでソフトコア・ポルノを撮っていたウォーレン初のホラー映画となった1976年のこの作品はガスライティングの語源となったサスペンス映画の古典『ガス燈』と悪魔崇拝をミックスしたような正調オカルト映画であり、『タイム・ワープ・ゾーン』みたいな後のウォーレン作品と比べるとずいぶんと落ち着いた作風で驚かされる。「ウォーレンのすごいところは作品ごとにやっていることがまるで異なる点なんです」とはビデマ店主さんの弁。うーむなるほど、こういうことか。派手なところや突拍子もないところは無く、日常的なシーンの中でじわじわと主人公および観客を追い詰めていく演出は初のホラーとは思えない風格が漂う。とはいえ上品な映画というわけでもなく、転落死体や目玉突き刺しのゴア描写はこの時代のイギリス映画にしては激しいものだし、邪教の儀式のシーンでのサディスティックなエロ描写も公開当時はセンセーショナルなものだったんじゃないだろうか。この映画には特典映像として新撮のドキュメンタリーのほか、テレビで放送されたと思しき製作当時のメイキング・ドキュメンタリーが付いていた。そんなものが作られるということはウォーレン、1976年の時点ではイギリス映画界の俊英だったんだろう。いろいろと意外な映画だ。

そして問題の『人喰いエイリアン』。これはかなりの変化球じゃないだろうか。地球人を捕食したいエイリアンが人間に化けて地球に偵察に来るが、こいつが何をするかといえば人なんか全然喰わず人里離れた屋敷に住むレズビアン・カップルと同居生活を送るだけ。エイリアンの正体を現すシーンでの特殊メイクもかなりしょっぱく、カップルに女装をさせられて食事をするシーンの方がインパクトがあるくらいなので、エイリアンもののホラー映画として見ればぶっちゃけ見所はゼロだろう。しかし、お互いに求め合いながらも同時にお互いに憎悪を抱き、ここではないどこかへの逃避を求めながらもお互いに拘束し合ってどこにも行けないカップルの関係性が、予期せぬ闖入者によって崩壊していくパトリシア・ハイスミス的な展開は結構面白い。ポイントはエイリアンが何もしない、ということだろう。カップルは自らエイリアンを家に招き入れそのことで勝手に自滅していくのだ。何もせずとも人間は壊れると知ったエイリアンが宇宙船の仲間に「まさに獲物に最適、人類を捕食するのは簡単だ・・・」と連絡する絶望的なラストはなんか悔しいがシビれる。レズビアンのセックスシーンも生々しい、なかなか挑発的な変則ホラー?ではないかと思う。

『ギロチノイド』は一転してダリオ・アルジェントの影響が随所に見られる派手派手な人死にまくりホラー。なんといってもこの映画の面白いところは仕組みは原始的だがそれでいて最大限の効果を上げている特殊効果や撮影の数々、原色照明がビカビカーッとか大量の紙がぶわーっと扇風機で舞うとか投擲された槍の視点でカメラを動かすとかその手のものだが、後の『死霊のはらわた』を思わせるところもあるケレン味あふれる演出はエネルギッシュでかなり楽しい。シナリオに技ありだった前作『人喰いエイリアン』とは違ってストーリーは魔女の呪いであんまり関係ない人たちがガンガン死んでいくというどうでもいいものだが、有無を言わさず次から次へと人が死んでいく光景には楽しさと反面の無常感が漂い、ウォーレン印の歯切れ良く救いがないラストがこれまた見事、なにか徹底したものがあるので絶望的なのに快哉を叫びたくなる。

『悪魔の受胎』についてはホラー映画ファンの定番アイテムだし日本盤のBlu-rayソフトも去年ぐらいに出たばかりなのであまり書くこともないが、狭いのか広いのかよくわからない異星基地のセット空間を最大限に活用してアクション映画的にコマを進めていく作りがまた『ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象』とも『人喰いエイリアン』とも『ギロチノイド』とも全然方向性が違い、この作品のそうした良さは他のウォーレン作品と比べることではじめて発見できるものだろう。ウォーレンは演出の引き出し自体はそこまで多くないように思えるが、にも関わらず多芸にして挑戦的な映画監督であり、そのへんのが意外と早く(商業映画の監督作は10本程度)引退してしまった理由なのかもしれない。たぶんオーソン・ウェルズみたいに映画で遊びすぎて映画に飽きてしまったんだろう。

その職人的フィルモグラフィーからはあまり見えてこないが、このボックスセットに収録されているウォーレンのかなり長い半生語りによればウォーレンは幼少期からの映画ファンで、学生の時分には8ミリカメラで自主映画をよく撮っていたらしい。特典に入っている1965年の短編FRAGMENTはウォーレンが才能の売り込みのために制作したサイレントの恋愛ドラマだが、それを見るとたしかに映画ファンらしさが滲み出ていて、やや過剰なほどに細かいカット割りとそれによるリズミカルな展開は、こう言えばさすがに言い過ぎのような気もするが映画大好き映画監督スティーヴン・スピルバーグを思わせないでもない。と同時に、これは冬のロンドンっぽいところを舞台にした風俗映画の側面を持つ終わった恋の物語であり、その冷たさはネオリアリズモから、その軽やかさはヌーヴェルヴァーグに学んだもののようにも見える。言い過ぎましたねすいません。でもFRAGMENTはシナリオこそつまらないが(とくにオチが)良く出来た映画であり、ウォーレンの才能を思わぬ角度から見せつけられる佳作であった。

ソフトコア・ポルノ出身のホラー監督という点でもイタリアン・ホラーを思わせる救いの無さを特徴としている点でも同時代の英国ホラーの巨匠、ピート・ウォーカーと被るところのあるウォーレン。英語圏ではカルト的な人気があるそうなので(でなければこんな豪華なボックスセットは出ないだろう)、ぜひとも日本でも、今こそウォーレンの再評価が進んでほしいものだ。まぁ、ピート・ウォーカーの方も再評価どころか作品がほとんど入ってきてないから絶望的だけどねッ!

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com