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あの映画のあれ

【あの映画のあれ】あれ5 『オッペンハイマー』に出てくる「赤狩り」

現在公開中のクリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』。第二次世界大戦中のアメリカで原子爆弾実験を成功させ、「原爆の父」として知られる物理学者ロバート・オッペンハイマーの半生を描いたこの映画は、今年の第96回アカデミー賞で作品賞と監督賞をダブル受賞(他にも主演男優賞など5部門で受賞)したこともあって、日本でも公開されるや大きな話題を呼んでいるようです。しかし、実際に見たら思ってたのと違って戸惑った人も結構多いんじゃないでしょうか。というのもこの映画、オッペンハイマー博士がソ連のスパイとして告発されるシーンから始まり、その弁明の中で原爆開発の顛末が語られるという入れ子構造、映画の主軸はどちらかといえば原爆開発の過程よりもその後のオッペンハイマー博士の後悔と、それと並行してのスパイ告発=「赤狩り」にあったのです。では赤狩りとは何か?それがわからないと『オッペンハイマー』という映画が何を描いていたのか半分しかわからないと思いますので、今回は赤狩りについて調べてみましょう。例によってインターネット検索で。

赤狩りとはざっくり言えばアメリカからソ連のスパイや同調者を追放しようとした運動。第二次世界大戦中、アメリカとソ連はナチスドイツという共通敵があったため、連合国ではなかったものの共闘していました。ところが戦後になるとその関係は一変、共産主義を国是とするソ連は共産主義勢力圏の拡大を図り、資本主義国であるアメリカがこれに強く反発したことで、ソ連勢力圏=東側諸国とアメリカ勢力圏=西側諸国は敵対するようになり、お互いに核兵器をチラつかせながらそれぞれが勢力圏を拡大するために世界各国で政治工作や代理戦争を行うようになります。いわゆる冷戦というやつですね。

さて、こうした情勢下のアメリカにおいて、共産主義に共鳴したりソ連に友好的であることは決して好ましく思われることではありませんでした。それが公職ならなおのことで、軍事機密をソ連に持ち出されたり、こっそりとソ連に有利になるように政治工作をされたら、アメリカはソ連に負けて共産主義の国になってしまう・・・そんな恐れから始まったのが赤狩りです。赤狩りを提唱し主導したのはジョセフ・マッカーシー上院議員と米下院に置かれた非米活動委員会。民主主義に反する活動を摘発するという名目で1938年に設置された非米活動委員会は戦前~戦中にはアメリカ国内のナチス・ドイツ共鳴者の摘発を行っていましたが、戦後冷戦期に入るとその摘発対象は共産主義者や共産主義者と関わりのある人々に変わり、これは後に公職者から映画関係者や文学者にまで対象が拡大されます。

少なくとも建前としてはアメリカの民主主義と自由をソ連から守るための運動として始まった赤狩り。しかし、共産主義思想に詳しかったり、ソ連に友人がいるというだけでもソ連のスパイの嫌疑がかけられ(オッペンハイマー博士はまさにそのような人でした)、無罪放免をエサにスパイの疑いのある人物を言わせる「密告」が推奨されるなど、その活動は皮肉にも全体主義の色彩を帯びていき、むしろ赤狩りこそがアメリカの民主主義と自由を脅かすものとなっていきます。赤狩りを行っているのはあくまでも下院の一委員会に過ぎませんでしたが、証人喚問を拒否したり、他の証言者によって自身の証言が否定されれば、議会侮辱罪や偽証罪などで投獄されることもあり、実質的に非米活動委員会は全体主義国家における秘密警察のように機能したのです。

多くのハリウッド映画人が「アカ」として告発され、ジョセフ・ロージー監督のように国外亡命を余儀なくされた者や、『ローマの休日』で知られる脚本家ダルトン・トランボのように実刑を受けて収監された者を生み出すと同時に、西部劇スターのジョン・ウェインやサイレント期からの大監督セシル・B・デミルが非米活動委員会の積極的な支持者へと回ったことで、1950年代のハリウッドにも深刻な分断を生み出し、大きな傷跡を残すこととなった赤狩り。『オッペンハイマー』という映画で描かれたものを理解する上でも、なぜこの映画がハリウッドの「功労賞」であるアカデミー賞で七部門受賞という快挙を成し遂げたのかを理解するためにも、赤狩りを知ることは不可欠だったりするのです。

ちなみに、オッペンハイマー博士が赤狩りのターゲットとなった直接的な理由はアメリカの水爆(水素爆弾。原爆よりも強力な核兵器)開発計画に反対を表明したためですが、その背景にはオッペンハイマー博士が主導したマンハッタン計画(原爆開発計画)に携わった物理学者クラウス・フックスが原水爆の機密情報をソ連に流していたことが判明した事件があると考えられます。フックスがスパイの嫌疑で逮捕されたのは1950年、当時フックスはアメリカではなくイギリスを拠点としていたため『オッペンハイマー』にはほとんど登場しないのですが、それを頭に入れた上で『オッペンハイマー』を見ると、また違った見方ができて面白いかもしれません。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Twitter→@eiganiwaka