【こないだビデマでこれ買った】Vol.43 『STREET TRASH』(2024)を買った
そういえば最近人が溶ける映画を見てないな・・・と思ってビデマ店主さんに溶解映画のオススメはないでしょうかと訊ねたところSTREET TRASHのリブートですかねぇとおっしゃる。リブートが出ていたとは知らなかった。STREET TRASH、言わずと知れたトラッシュ・カルト『吐きだめの悪魔』である。そのリブート版がソフト化されていたらしい。実はこのソフトの存在はちょっと前から把握していたのだが、オリジナルの『吐きだめの悪魔』はあくまでも個人的な印象では『サンゲリア』とか『食人族』と同じくらい数年置きに新ソフトが出ている気がしていたので、また『吐きだめの悪魔』の新盤出てんのかよと思ってスルーしてしまっていたのだった。
店主さんの流暢な解説は続く。今回は舞台が近未来となっていまして・・・「え、近未来なんですか!?」思わず聞き返してしまった。人はなにゆえ名作のリブートを無駄に近未来でやりたがるのか。カルト・ホラーといえば『ザ・カー』のリブート版も近未来設定(とうぜんAI車が暴走するのであった)になっていてオリジナル版の良さがすっかり失せていたことが思い出される。しかもこのリブート版STREET TRASH、ジャケ裏の解説を読むとオーストラリアではなく南アフリカのケープタウンで展開される物語らしい。人が溶ければ世界のどこでも別に構わないとはいえ、なぜあえてケープタウンなのだろうか。そこは近未来の荒廃したオーストラリアという『マッドマックス』とか『地獄の脱出 デッド・エンド』とかの定番設定ではダメだったのか。疑問はいろいろ浮かぶが、なにはともあれ見てみないことには良いも悪いも言えない。とりあえず買ってみよう。
映画の概要はこんなようなものだった。世界経済の混乱により2050年のケープタウンは失業率90%で街中ホームレスだらけ。富は超富裕層に集中し99%の人々が食うに事欠いて困っているのに1%の人々は死にほど豪華な生活を送っているのであった。そんな終わった世の中でいつものように悪徳警官と追いかけっこをして事故的に警官のチンチンをちょん切った主人公の反骨ホームレスは新人ホームレスの若い女性と出会う。袖触れ合うも多生の縁ということで彼女をプロのホームレスとすべく訓練を施す主人公。一方そのころ、ホームレス撲滅を公約に掲げる悪徳市長は極秘開発した人体融解汁を用いて文字通りホームレスたちの浄化を目論んでいた・・・。
すごいっ。社会風刺である。あの『吐きだめの悪魔』のリブート作でグローバリゼーションと格差社会批判!なんでこれ『吐きだめの悪魔』のリブート作として作ろうとしたんだろう。よくわからないが、しかしフルムーン映画みたいな雑な社会風刺ではなくトロマ映画みたいに結構真面目な社会風刺をやろうとしていることはわかる。どんぐりの背比べとか言うんじゃない。トロマ総帥ロイド・カウフマンが自らメガホンを取った『チキン・オブ・ザ・デッド』なんかすごい知的な社会風刺映画なのだ。知的だしウンコとかもいっぱい出てくる。こちらSTREET TRASHはウンコが出てこない代わりに人がいっぱい溶けるわけだ。
その溶けだが、これは良い溶けだった。オリジナル版から約40年、その間に溶解技術も進化した。溶けるというかオリジナル版は人体からペンキが噴き出して謎のスライム状生物に変身する(のち爆発)感じだったが、こちらはしっかりと皮膚が剥がれ骨が曲がり腕は千切れはらわたはこぼれ落ちて謎の蛍光色の液体を噴き出しながら最終的に爆発。個人的にはもっとこうワビサビを感じる『溶解人間』的な溶けの方が好みではあるが、ともあれ溶けに関してはオリジナルを超えたと言っても過言ではないだろう。溶け描写は容赦が無く溶け人数も気前が良く、これだけ溶けているのになぜ日本公開がまだ決まっていないのだろうと不思議に思う。それとも溶けているから公開が決まらないのだろうか。まぁそうでしょうね。
設定もちゃんとしているがストーリーもちゃんとしているので、小粋でほどよく悪趣味なアメリカン・ユーモアを随所に差し挟みつつ終盤は悪徳市長を怒りのホームレスたちが爆発させに行くアクション展開に。そういうことじゃないんだよなぁ、という気はするが、それはあくまでも『吐きだめの悪魔』のリブートとして考えればということで、STREET TRASHという新作ホラー・コメディ映画としてはかなり楽しめるんじゃないかと思う。なんか映像も色彩がネオン調だったりセットがインスタレーションみたいでオシャレでしたしね。アリ・アスターに推薦コメントを無理矢理吐かせて日本公開すれば若い女性中心にスマッシュヒットするかもしれません。