【こないだビデマでこれ買った】Vol.18 『2019:After The Fall Of New York』(邦題『サイボーグ・ハンター/ニューヨーク2019』)を買った
この2019:After The Fall Of New York、DVDのジャケット上部に「POST-APOCALYPTIC COLLECTION」の印刷帯があり、POST-APOCALYPTIC COLLECTIONといえば以前このコーナーで紹介したThe People Who Own The Darkと同じシリーズ。The People Who Own The Darkはなかなかの傑作だったからこのシリーズは信頼できるなと思って2019:After The Fall Of New Yorkも買ってみたのだが、他にどんな作品がこのシリーズにはあるのだろうと検索にかけるもなかなか思うような結果が得られず、ならばレーベルのサイトでとジャケット裏を見るとアラ不思議、The People Who Own The Darkと2019:After The Fall Of New Yorkでレーベルが違うではないか。しかも片方のURLを見るともはやDVD販売はやっておらず撮影スタジオのホームページになっていた(URLだけ買ってるというわけではないようなのだが)
DVD事業を畳む前にPOST-APOCALYPTIC COLLECTIONのシリーズごと別のレーベルに売り払うとか、DVD部門を別会社として切り離すとかしたのだろうか。それにしてはどちらのレーベルで検索してもホームページひとつ出てこないし、だいたいPOST-APOCALYPTIC COLLECTIONで検索しても数作品出てくるのみで、その中にThe People Who Own The Darkは入っていない。なんだか謎多きPOST-APOCALYPTIC COLLECTIONであるが、なにはともあれ、このシリーズへの信頼を新たにしたのが2019:After The Fall Of New Yorkであった。
2019というぐらいなので舞台は2019年のニューヨーク。この映画は1983年の作だが、80年代SFにおける近未来は『マッドマックス2』の甚大なる影響により大抵核戦争で崩壊&荒廃しているので、ここでもしっかりと核戦争で世界は崩壊、地上には人間の皮を被ったアンドロイドと放射線の影響により様々な方向に突然変異を遂げたニュー人類(ということになっているが顔がちょっとケロイド状になってたり背が低かったりするだけ)が溢れ、そのニュー人類を生殖能力を無くしてる以外は健常な人々から成るニューナチス的なやつが剣道の面を被り白馬にまたがって火炎放射器で焼き払ったりしている。そんな荒廃世界に生きる人々の数少ない楽しみといえば戦闘用デコ車による騎馬戦。主人公はそのチャンピオンで今日も見事勝利して慰安用アンドロイドを与えられるが「おめぇさんは自由に生きな・・・」と荒野に逃がしてやるナイスガイだ。
そのナイスガイに目を付けたのが在アラスカのアメリカ亡命政府。彼らはニューナチス的なやつにバラバラにされたアメリカを再統合するためにニューヨークの奥深くに眠る人類で唯一生殖能力を持っているとされる娘を求めており、そのために主人公に白羽の矢が立てられたのだった。なんだか信用できないが腕は立つ二人の仲間と共にニューヨーク2019に潜入する主人公。果たして彼は決死のミッションをクリアすることができるのだろうか・・・。
これは見た直後の感想なので現在はだいぶ下方修正されているが「世界一面白い映画か!?」と思ってしまった。なんという・・・なんという面白さしか含まれていない映画なんだ!なにせ映画が始まるとすぐにポストアポカリプトなニューヨーク街路に剣道の面を被り白馬を駆るキワモノ極まる武装集団が現れ汚物は消毒だとばかりに無抵抗のケロイド新人類たちを火炎放射器で焼き殺していく人間狩りを始めるのだ。そこだけでも面白いのに一通り人が燃えると今度は荒野に舞台が移りそこでは思い思いに改造された戦闘デコ車たちがぶつかったりクラッシュしたり爆発したりしている!
デコ車がエンジントラブルか何かで止まると中から主人公が現れ今度はイタリアジャンル映画名物わりともっさりしたアクロバティック・アクションを駆使したパンク野郎どもとの肉弾戦だというわけでSF、バイオレンス、炎上爆破、カーアクションに格闘とものすごいサービス精神満載の冒頭にもう目が釘付け。普通のイタリア映画なら25分に一回ぐらいに分配して水増しするに決まっている見せ場をこの映画は冒頭10分ぐらいに詰め込んでしまうのだから驚きだ。もちろんこれは『ニューヨーク1997』と『マッドマックス2』と『世界が燃えつきる日』他の各種終末系SF映画いろんなやつのパクリだが!
とにかく感心しきり。冒頭でこれだけ面白いのだからその後は落ちる一方だろうと思いきやこれが粘る粘る実に粘る。ほとんどワンシーンごとに舞台が西へ東へと次々変わり、そのたびにユニークな新キャラクターが登場し、安いがアイデアに富んだカーチェイス、即席合成の冴えるSF武器を使ったバトル、頭部破壊や内臓破裂など唐突にして本格派のゴア描写、思惑の読めないキャラクターたちによる策謀合戦、更には効果の微妙すぎる感じのSF拷問台まで登場するゴージャスさ。
本気を感じたのはロケとセットの多彩さだった。あらすじの方にアラスカの合衆国亡命政府がどうとか書いているが、このシーンはなんとそのセットや衣装を(他作の流用の可能性がかなり高いとしても)ちゃんと組んで撮られているのだ。当たり前だろ。いや、当たり前ではない。普通のイタリア映画ならなんか適当な部屋ひとつとかで誤魔化すがこの映画は複数の部屋と廊下も出てくる。こちらが脳内補完してここは合衆国亡命政府のアラスカ基地ということにしておこうとセルフマインドコントロールをする必要などなく、ちゃんと画面の中に基地がある!これをありがたいことと思えない人は映像コンテンツ飽食の時代に毒されていると思います。
多彩さと言うからにはもちろんそこだけではなく、ニューナチスのニューヨーク基地も身体的特徴によってトライブを作って暮らしている新人類の居住地も荒廃したニューヨーク市街地も、この映画は全部別のセット、別のロケ地で撮っている。たしかにそのロケ地はいかにも撮影許可が簡単に取れそうで金もかからなそうなどっかの化学工場とかどっかの倉庫とかどっかの廃車置き場とかばかりなのでひとつひとつはチープなのだが、安食材も数を揃えれば立派な幕の内弁当、見て嬉しい食べて美味しいゴージャス品だ。ミニチュアワークも手を抜いておらずアラスカ基地、ニューヨーク、ニューナチス基地、そして宇宙船まで全部ちゃんと作って外観ショットを撮る。イタリア映画界のミニチュアワークはそれほど優れたものではないので主に撮り方の問題によりミニチュア丸出しではあるのだが、逆にそのために色んな種類の凝ったジオラマを見ている気分になり楽しくなってしまう。
主人公がニューヨークに潜入してからの波瀾万丈の冒険はこうしたマニエリスム的な画の豊かさによって少なくとも志だけならハリウッド映画にも勝るとも劣らないファンタジー性を獲得しており、さながら駄菓子屋の『ロード・オブ・ザ・リング』、童心に退行して素直にワクワクしてしまった。イタリア映画なのに(さっきからそんなことばかり書いているが・・・)出てくるキャラクターが単なる殺され役とか脱がされ役ではなく一人一人見た目も性格もしっかり立って、小人族の男のクールな死に様には不覚にもちょっとだけグッときてしまったので、駄菓子屋的だが見た目だけの映画ということもないのだ。意外性と緊張感のあるシナリオもイタリア映画にしては(以下略)
というわけであまりにも面白かった2019:After The Fall Of New York。監督は『影なき淫獣』の人でもあり『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』の人でもあるセルジオ・マルチーノと聞けばなるほど納得、これはポストアポカリプスだけではなくファンタジーやアドベンチャーという言葉にシナプスが動いてしまう人ならイタリア映画にも関わらず広くオススメしたい逸品です。ちなみにネズミが何匹も死ぬシーンがあるが撮影後にイタリア人スタッフが美味しくいただいたはずなので大丈夫です。