【映画で解決!捏造お悩み相談室】第10回 Q「酒が無限に飲める島に行きたい!」
悩み事の尽きない現代社会を生きるのは大変なことです。ことにその悩みを打ち明ける相手がいない、打ち明けても有効な解決策が出てこないという場合は尚のこと。でも大丈夫、そんなあなたのお悩み、きっと映画が解決します!
ういー、ひっく!バカヤロー!なんだってんだ!不況に円安、少子高齢化に政治家の裏金!こーんな世の中、飲まずにやっていられるかー!ひっく!ねぇ旦那、あたしゃあね、日本の酒税法はちょっと厳しすぎると思うんだ。これじゃあわれわれ庶民は酒が好きに飲めないじゃないの。酒は百薬の長!酒を飲めば健康大国!ひっく!あー、どこかに酒が好きなだけ自由に飲める島なんかないもんですかねぇ。ヤシの木なんかが生えててね、それでヤシの実を割ると中から酒が出てくるんだ、げへへ!川だってあんたあれだよ、全部酒!ぜーんぶ酒の島!そんな島があったら行ってみたいもんだねぇ。ひとつよろしくお願いします、ひっく!
三重県 はぶらかかぺから
ははは、飲み屋からお便りをありがとう。酒、たしかにそれは人生で困難にぶち当たった時のひとつの答えかもしれないね。なんてったって酒は大麻の所持だけではなく使用も今では違法となった世界有数のドラッグに厳しい国、日本においては貴重な合法ドラッグ。合法といってもドラッグには違いないから(タバコだってそうだね!)過剰摂取すれば急性アルコール中毒で死んだりするし、依存性が強いから一度飲酒習慣がついてしまうと辞めることは難しい、長期間に渡る飲用は肝障害や大腸がんなどの臓器疾患の要因のひとつともなるけれども、適切に摂取して酔うことができれば少なくとも一時は現実のツラさを忘れてハッピーな気分になれるよね。日本人は遺伝的にアルコールの分解酵素が少ないことが知られているのに、それでもみんなお酒を飲むのが大好きなのだから、よほど生きにくさを感じやすい国なのかもしれないね、ははは!
さて、ペンネームの呂律が明らかに回っていない三重県のはぶらかかぺからさんの相談はお酒が無限に飲める島に行ってみたいということ。果たしてそんな島があるだろうか・・・いや、そうだ、そういえばこんなタイトルの映画がありました!これはもしかするとはぶらかかぺからさんのお悩みに応える映画かもしれませんぞ!
『酔っぱらい天国』!!!!!!!
戦後の日本映画界において小津安二郎、木下恵介と並び称され、「意地悪じいさん」の異名を取った松竹三大巨匠の一人・渋谷実監督によるアルコール・ノワール!妻を亡くし成人済みの息子と二人で慎ましく暮らしている主人公のサラリーマン(笠智衆)の楽しみは息子と一緒に酒を飲むこと!酒さえ飲めばイヤなことはすべて忘れ心に巣くう不安だって消えていく・・・あぁ、こんな日々がいつまでも続けばいいなぁ!だがそんなある日、主人公を悲劇が襲う!恋人との結婚を控えた息子が酒場で酔った新人プロ野球選手(津川雅彦)とケンカになり、死亡してしまったのだ!悲しみから更に酒に溺れるようになる主人公だったが、悲劇はこれでは終わらなかった・・・!
「意地悪じいさん」の異名を取るだけあって渋谷実の作品は辛辣な社会風刺が特徴だが、中でもこの『酔っぱらい天国』はあまりにも辛辣なのでもはや風刺にもブラックユーモアにもなっておらず、その偶然が偶然を呼びすれ違いがすれ違いを生み不幸に更なる不幸が次々と積み重なっていく負のジェットコースターのような展開は、まるで不条理劇!下戸として知られる渋谷実監督なので酔っぱらいに対する眼差しは徹底的に冷たく、しまいには酒を飲まない人も含めて主人公と関係した登場人物全員がどん底に落ちるのだから、いったいどれだけ酒飲みが嫌いなんだと言いたくなる!
小津映画を筆頭に様々な作品で「日本の父親」を演じてきた笠智衆がここでは酒を飲むと性格が一変して暴走する、おそらくキャリア史上最大のヨゴレ役を熱演!その飲み仲間のトップ屋くずれ・三井弘次ともどもアル中の醜悪さをこれでもかと観客の目に焼き付ける!白い壁や格子を執拗に画面に挿入する画面作りも悪夢のような雰囲気を醸し出して強烈だ!ということで三重県のはぶらかかぺからさん!酒が無限に飲める島なんかあるわけねぇだろバカヤロー!ぜひともこの映画を見て禁酒チャレンジをしてみてください!
※質問は完全に捏造なので応募とかしてこないでください。