【こないだビデマでこれ買った】Vol.39 『SEEDPEOPLE』(邦題:デビル・シード)を買った
フルムーン・フィーチャーズといえばホラーファンにはお馴染みのチャールズ・バンド率いるエンパイア・ピクチャーズが五回ぐらい転生(改名)した現在の姿だが、フルムーンの最近出したソフトを見ると冒頭にマーベル映画みたいな感じで過去のエンパイア/フルムーン作品の名場面をパッチワークした長めの宣伝映像が流れる。マーベル映画の大成功により世は一大ユニバース時代。老舗スタジオともなると過去の映画遺産をフル活用してなんでもかんでもユニバース化しようとしては無残に失敗しているが、根強いファンを多く抱えるフルムーンもまた独自のユニバースを構築しているらしい。MCU以前に『デモニック・トイズ』を『パペット・マスター』や『ジンジャーデッドマン』とクロスオーバーさせたフルムーンはいわばユニバース路線の先駆者、この金儲けチャンスを逃すはずがない。
その『デモニック・トイズ』を監督したピーター・マヌージアンによる1992年のフルムーン映画がこのSEEDPEOPLEなのだが、た、タネ人間!タイトルだけで既に絶対見たくなる映画なのに、Blu-rayソフトのジャケットを見るとそのタイトルの下に顔色の悪いダルマに手が生えたような謎の生物が3匹描かれている。どうやらこれがタネ人間らしい。これが襲ってくる。明らかに超見たい映画なのでチャールズ・バンドは商売が上手いと思う。
内容の方はジャケ裏に書かれている「『ボディ・スナッチャー』と『クリッター』の融合!」という惹句というか推薦コメントが全てだった。平凡な田舎町の果樹園で発見された繭のような何か。それは遙か昔に地球に到来したダルマ型宇宙生物・タネ人間であった。長い眠りから目覚めたタネ人間たちは寄生と洗脳を駆使してさっそく繁殖開始、はたして人類は生き延びることができるのだろうか・・・とこのあたりのストーリーは『ボディ・スナッチャー』で、このタネ人間たちは丸まってゴロゴロと移動するのでそこは『クリッター』。タネ人間に寄生された人(外見は普通の人間)は窮地に陥るとしゃがんでタネ人間にトランスフォームしゴロゴロ転がるのが可笑しい。
しゃがみ変身ゴロゴロはバカバカしいものの笑えるところはそれぐらいで、低予算を逆手に取ったバカっぽい描写が多いフルムーン映画には珍しく、このSEEDPEOPLEは全編シリアスなSFホラー。クリーチャーの姿をしっかり見せるのはフルムーン映画の美点のひとつだが、マペットと着ぐるみを併用して作られた例のタネ人間登場シーンは造型の良さもあって意外やなかなか迫力と緊迫感があり、人間に寄生する際のクリームまみれ攻撃やタネ乱射攻撃も生理的嫌悪感がありイイ感じ。田舎町が水面下で静かに侵略されていく薄気味悪さという点では『ブレイン・スナッチャー』などもっとお金のかかった寄生型エイリアン侵略映画にも引けを取らないんじゃないだろうか。むしろ、予算の都合から必要最低限のシナリオと演出と無名役者で侵略の恐怖を見せるこの映画の方が、薄気味悪さは強いかもしれない。
見終わってから調べたらこの映画、どうやら日本でも『デビル・シード』のタイトルでVHSが出ていたらしい。まったく知らなかった。『デモン・シード』という似たタイトルの映画がある上に知名度的には『デモン・シード』の圧勝だろうからその陰に隠れてしまったのかもしれない。フルムーン映画としては多少の異色作かもしれない低予算ながら本格派SFホラーのSEEDPEOPLE。これは掘り出し物の佳作だ