【映画の世界の片隅で】10人目 『ジュラシック・パーク』でティラノサウルスに怯えていたアリアナ・リチャーズ
アメリカ映画はなぜだか子役志向がとても強い。その流れがいつから始まったかは定かではないが少なくとも『オズの魔法使』で一躍大スターとなったジュディ・ガーランド以降、天才子役で一山当てるというのはハリウッドの映画会社にとっても全米の親御さんたちにとっても一つのアメリカン・ドリームとなったようだ。なんでもセルフが推奨され幼い頃から自立が促されるアメリカの精神風土もその背景になっているんだろう。アメリカ映画の子役たちは良くも悪くも子供らしさがあまり求められず、小さな大人として完璧に演技をコントロールすることが求められる。過酷なレッスンや大人社会に幼くして送り込まれ大人たちのドリーム(金儲け)の犠牲になる子役もしくは子役挫折者たちが誠に不憫である。
とはいえ天才子役を映画で見るのはたしかに楽しい。天才といってもやはり子供、まず見た目が可愛らしいし、子供なのに大人顔負けの芝居をするそのギャップが面白く、見ている側としては応援したくなる。ハリウッドにおける天才子役ブームの頂点はやはり1990年代。日本でも安達祐実が『家なき子』で社会現象を巻き起こしたこの時代、ハリウッドでは『ホームアローン』のマコーレー・カルキン、『シックス・センス』のハーレイ・ジョエル・オスメント、テレビドラマ『ER』でデビューし2001年の『アイ・アム・サム』でブレイクするダコタ・ファニングなど、天才子役と呼ばれる子役たちが代わる代わる銀幕を彩った。しかし誰かを忘れてはいまいか。1990年代の天才子役といえば・・・そうだ、『ジュラシック・パーク』で乗ってる車にティラノサウルスが近づいて来てごっつ怯えていたあの子役!
『ジュラシック・パーク』を一度でも見たことがある人なら決して忘れることのできないあの表情の主はアリアナ・リチャーズ。1979年に生まれ7歳の頃からキッズモデルとして多数のCMに出演していたリチャーズはやがて役者へとスライド、『トレマーズ』、『グランド・ツアー』(SF脚本家デヴィッド・トゥーヒーの傑作!)、そして『ジュラシック・パーク』と、主にSFジャンルの名作に次々と出演を果たす。この時期のリチャーズはかなりノっていたようで、『ジュラシック・パーク』公開の1993年には日本でポニー・キャニオンからCDまで出していたとのこと。
しかし、どうしたことかリチャーズの天下は長くは続かなかった。学業との両立が難しいなどの事情もあったのか、『ジュラシック・パーク』でハリウッド子役のトップに王手をかけながらも、以降は目立った作品に出演しておらず、実写映画では2001年の『トレマーズ3』、声の出演では2004年の『となりのトトロ』アメリカ公開時のさつき役を最後に出演作はぷっつり途絶える。やはりハリウッド子役は茨の道、マコーレー・カルキンなどもギャラを巡って両親と裁判沙汰になり相当苦労したようだが、リチャーズもまたハリウッドの闇に呑まれてしまったのであろうか・・・。
と思ったら実はリチャーズ、幼少期からタレント活動と並行してアート活動も行っており、2000年代に入ると画家に転身したとのこと。現在でも画家として活動しており、その絵は公式サイトgalleryariana.comで見ることができるが、印象派とスーパーリアリズム絵画(写真のような絵)をミックスした独特の画風で、なかなか面白い。
ハリウッドを完全に離れたわけでもなく、今でもたまに映画に出たり『ジュラシック・パーク』関連の番組に出たりとマイペースにポスト子役人生を謳歌している様子のアリアナ・リチャーズ。映画の世界の片隅で、こんな風に慎ましくも幸せに生きている元子役も中にはいるもんである。