【ムビトイ万博2025】TMNとその『EXPO』期パビリオン
2024年はTM NETWORKのデビュー40周年だった。そして続く2025年といえばTMNのデビュー35周年である。
このTMNという名称は単なるTM NETWORKの略称ではなく、1990年に「リニューアル」を謳って改名したもの。この「リニューアル」という言葉を使ったのは日本では相当早かったらしい。近年のNetflix版『シティ・ハンター』の主題歌に付けられた『Get Wild Continual』というタイトルの響きも、これに通じるものがある。
1989年のリミックス盤『DRESS』と同年のツアーで頂点に達したユーロビート路線から一転、TMNとして初のアルバム『RHYTHM RED』は『TIME TO COUNT DOWN』そして『69/99』という大ハードロックで幕を開ける。
TM NETWORKはあくまでも宇都宮隆のヴォーカル、小室哲哉のシンセ、木根尚登の謎めいた存在感が中心にあり、他の要素は装飾として取り入れられていた。
対してTMNでは、まず生音の比重が上がり、外部ミュージシャンの演奏(特にエレクトリック・ギターと生ドラム)が全面に出て、木根尚登が初めてリード・ヴォーカルを取った。
TM NETWORKではシンセ主体の音楽のヴァリエーションとしてディスコ〜ユーロビートを始めとしたダンス・ミュージックが取り入れられたが、TMNでは同じ4つ打ち主体の曲でもリズムマシンの音を先に聴かせる。これは後のDAWに先駆ける当時の最新機材シンクラヴィアの導入によって、徹頭徹尾小室哲哉印のトラックが作れるようになったことも大きいだろう。
このように当時のTM NETWORKでは考えられなかった音楽的冒険がTMNでは行われた。
アルバム『RHYTHM RED』を携えてのツアーにはドラムス阿部薫が最後期TM NETWORKに引き続いて参加。ベースは基本的に浅倉大介の鍵盤。そしてリード・ギター&サイド・ヴォーカルに葛城哲哉。彼のリードは前任の松本孝弘とは全く異なる個性を持っていて、クリアな単音よりも豪快な和音を聴かせる。かと思えばシンセ&マシン主体の曲では抑えた音で的確なバッキングを行う。この表現のレンジの広さゆえに2000年代以降のTM NETWORKでも準レギュラー的な存在となった。
ツアーを経て制作されたシングル『LOVE TRAIN』では歪んだエレクトリック・ギターを全面に出しつつ、ユーロビートに回帰しTM NETWORK的サウンドへの揺り戻しが図られたとされる。両A面の『WE LOVE THE EARTH』も、TMN的なリズムマシン主体の音でありながら、親しみやすい歌メロときらびやかなシンセを聴かせTM NETWORKのファンにアピールするものだった。このシングルは結果的にキャリア最大のヒット作となる。当時はCDというメディアが全盛を迎えつつあった。
続いて制作されたアルバムが『EXPO』である。『RHYTHM RED』では禁じ手のようになっていたTM NETWORK的な曲調すらも取り込み、さらに多彩になった楽曲群を纏め上げるコンセプトが「EXPO」、万博だった。
このアルバムを携えてのツアーではライヴ全体を数曲ごとに区切り、それぞれをパビリオンとした。ハウス・パビリオン、クラシック・パビリオン、フォーク・パビリオン、メタル・パビリオンといった具合だ。
アルバム『EXPO』に収録されなかった楽曲『Wild Heaven』はシングルとしてリリースされ、ライヴの中ではTM NETWORKパビリオンとして位置づけられた。
この『EXPO』期はTMNにとっての「終わりの始まり」だったとされる。事実、この後のTMNは活動休止状態となり、再開したときには「終了」というコンセプトを掲げていた。TM NETWORK時代から「ファンを驚かせる」ことを身の上としていたリーダー、小室哲哉の理想と現実が噛み合っていた最後の時期だったのだろう。