MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

特集

【アカデミー賞特集2023】あの頃きみは惜しかった・・・オスカーを逃した名作たち

のっけからこんなことを言うのもどうかと思うがぶっちゃけアカデミー作品賞受賞作には大したことのない作品が実に多い。そりゃ面白いとは思いますよ面白いとは。全部面白いんですけど、でもさぁ・・・なんつーか、後生に多大なる影響を与えた映画史上の傑作みたいなのって案外作品賞ノミネート止まりで受賞してない。アカデミー賞って大勢いるアカデミー会員の投票で民主的に選ばれるから、すごい芸術的だったり最先端だったりする映画って票が集まらないんだよな。どうしても万人の心に響くようなある意味では平凡な感覚を持った映画に票が集まりがち。

まぁそれはそれで結構なことなのだが、とはいえアカデミー作品賞受賞作の一覧を見ていると「いやこれが受賞逃したのかよ?!」っていう映画が多いあまりに多い。もうびっくりする。そのびっくりをリアル友達のいない俺はインターネットの人たちとシェアしたくなったので、作品賞を逃した名作たちの一部をここで紹介しよう。

まずは1939年、第12回のアカデミー作品賞を獲り逃した『オズの魔法使』。言わずと知れたミュージカル&ファンタジー映画の金字塔。その影響力は映画業界に留まらず一時期はアメリカのゲイ・コミュニティでのアイコンにもなっていたほどだ。これほどの作品がノミネート止まりとは・・・ため息が出かけたところで目に入るこの年の作品賞受賞作、『風と共に去りぬ』。じゃあしょうがないか!それは敵が悪かった!なにせ1939年のこと、『オズの魔法使』は子供向け映画として大人向け映画より格下と見られていただろうし、それになぜかアカデミー作品賞はミュージカルに厳しい。ミュージカル大国アメリカの映画賞なのに・・・と思うが、そこらへんは歌曲賞や音楽賞といった作品賞以外の技術賞で評価するから許してネということだろう。

クラシック映画としては史上最高の映画の栄誉を長い間欲しいままにしていたかの『市民ケーン』も実はノミネート止まりの作。『市民ケーン』が史上最高の映画かどうかはともかくとして、革新的かつ天才的な作品であることは特に公開当時の水準で考えれば間違いないのだが、まぁちょっと時代の先を行きすぎたんだろうな。世界三大映画祭と言われるカンヌとかヴェニツィアとかベルリンは時代を切り拓く作品を評価してくれるが、アカデミー作品賞は逆に斬新であることを評価しなかったりする。考えてみればなかなか変な賞だ。

一般的には軽妙なコメディを得意とする監督のイメージの方が強いと思われるビリー・ワイルダー監督のハリウッド暗黒寓話『サンセット大通り』は、今でもデヴィッド・リンチが『マルホランド・ドライブ』の元ネタにしていたりデミアン・チャゼル『バビロン』の様々なイメージソースの中の1本に(おそらく)なっていたりとカルト的な人気を博している受賞逃し作。面白いのはこの年の受賞作で、ジョセフ・L・マンキーウィッツの『イヴの総て』。いずれも華やかなショウビズの世界の黒々とドロついた裏側を告発するバックステージものの傑作であり、この二作がオスカーを競った1950年の第23回アカデミー賞はなかなか通好みの対戦カードと言える。

1971年の第44回は受賞作が刑事ドラマの定番傑作『フレンチ・コネクション』。これはアカデミー作品賞の長い歴史の中でも異例の受賞で、通例これみたいな人間ドラマ主体ではないほとんどアクション映画に近い刑事ドラマなんか受賞どころかノミネートすらされない。時代はニューシネマ旋風吹き荒れる70年代前半ということで、ニューシネマの一本として理解されたのかもしれない。さてこの年に受賞を逃したのがスタンリー・キューブリックのカルトSF『時計じかけのオレンジ』。『フレンチ・コネクション』もなかなか革新的な刑事ドラマだが、『時計じかけのオレンジ』に比べればまだアカデミー会員の理解の及ぶ革新性だったということかもしれない。

70年代の注目ノミネート作といえば『エクソシスト』。サイコ・サスペンスでは後に『羊たちの沈黙』が作品賞を獲得しているが、純粋なホラー映画としてはたぶんこれがアカデミー賞史上初のノミネートとなり、以降もホラー映画で作品賞にノミネートしたのは『シックス・センス』と『ゲット・アウト』ぐらいなので、オスカーは獲得できなかったが十分快挙。ちなみにこの年の作品賞は明石家さんまのオールタイムベスト映画としても知られる(のか?)『スティング』。なんかちょっと納得いかない。

さて納得いかない受賞逃し作といえば!やっぱ『スター・ウォーズ』でしょ。これ実は作品賞にノミネートされてたって知ってました?俺は知らなかったので驚いた。70年代はニューシネマ旋風によってハリウッドが改革を迫られた時代だけど、『エクソシスト』の例もあるわけだし、アカデミー作品賞もまた今までにない作品に門戸を開く改革を断行したのかもしれない。とはいえあくまでもノミネート止まりで受賞とまではいかないあたり、アカデミー作品賞らしいところだ。

現在最新作にして初の自伝的作品『フェイブルマンズ』が公開中(そして本年度アカデミー作品賞にノミネート中)のスティーヴン・スピルバーグは作品賞ノミネート組の常連。この時代、70~80年代のスピルバーグはやはりすごい。『ジョーズ』を皮切りに『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』『E.T.』『カラーパープル』と撮った映画のほとんどすべてが作品賞ノミネート。受賞は1993年の『シンドラーのリスト』まで待つことになるが、以降もコンスタントに作品賞にノミネートしており、もはやアカデミー作品賞の顔といえる。

スピルバーグの盟友フランシス・フォード・コッポラは『ゴッドファーザー』『ゴッドファーザー PART Ⅱ』と二作続けて作品賞を獲得する快挙を成し遂げたものの、私財をつぎ込んで完成させた畢生の作『地獄の黙示録』はノミネート止まりに終わった。スピルバーグの『プライベート・ライアン』もやはりノミネート止まりで、戦争映画は案外評価されないアカデミー作品賞ではノミネート作のリストに戦争映画史上の傑作がゴロゴロと転がっている。そんな中で作品賞を受賞したのはまだアカデミー賞が現行の体制になっていない頃の『西部戦線異状なし』(1930)を除けば『プラトーン』ぐらい。戦争映画だが戦闘シーンではなく一兵卒の苦悩が主題となっているところがアカデミー会員の琴線に触れたのかもしれない。

クエンティン・タランティーノとポール・トーマス・アンダーソンは現代のノミネート常連二大巨頭。二人とも新作を撮れば二本に一本は作品賞にノミネートして、『パルプ・フィクション』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』といったそれぞれの代表作もそこに含まれる。しかし90年代末にはアカデミー授賞式に出入りしていたこの二人、いつまで経っても作品賞を獲る気配がない。その理由はオーソン・ウェルズやスタンリー・キューブリックの場合とおそらく同じだろう。そう考えればなんか逆に受賞しないことが名誉に思えてくるから不思議ですね。

さて、さて。アカデミー作品賞ノミネートの名作傑作怪作たちを様々紹介してきたが、これが21世紀に入ると紹介したくなるようなノミネート作がどっと減る。強いて挙げれば2015年、第88回の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』だろうか。この内容でアカデミー作品賞ノミネートは快挙だが、しかしこの頃になるとアカデミー賞もショウとして洗練されてきて、観客が盛り上がるような作品選びをしてるなーとなんとなく白けるところがある。なんかもっといい加減なというか、ハリウッドの内輪の祭りっぽさが出てた頃の方がノミネート作にも受賞作にも意外性があって面白いんだよな。

その残り香の感じられる2000年以降のアカデミー賞は2007年の第80回。この年のノミネート作『つぐない』はあまり一般受けしそうにない渋い文芸映画で、このチョイスこそアカデミー作品賞!と個人的には思う。他のノミネート作も『フィクサー』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『JUNO/ジュノ』と通好みの秀作。2020年の第93回も面白い。この年の作品賞は受賞作の『ノマドランド』も含めて社会派のシリアスなドラマばかりノミネート、そういう裏テーマでも設けているのかと思ってしまう。いっそ、毎年テーマを変えて作品選定をした方がショウとして面白くなるんじゃないだろうか?

ということでざっとピックアップしてみた受賞逃しの名作たち。他にも『タクシードライバー』とか『ショーシャンクの空に』とか『ローマの休日』とかいろいろあるので、何か面白い映画が見たいときにはアカデミー作品賞の受賞作品リストではなく受賞しなかった作品リストから一本選んでみたりすると当たり率が高いかもしれません。改めて、変な映画賞だなぁ・・・。

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com