【アカデミー賞特集2023】概観?アカデミー歌曲賞
歴代のアカデミー作品賞をバーっと見ていったら今年は『トップガン マーヴェリック』がノミネートされていた。本気かそれ。半笑いでノミネートしてないか。大いに楽しめる映画なのは確かだが。とにかくトップガン・アンセムとDanger Zoneが活きていたし。
しかしザ・フーの『無法の世界』が流れたのは? あれは70sだしUKだ。曲調は合っていたがWon’t get fooled again=「もう騙されねえぞ」を何故。MTV→ライヴ・エイドの記憶ということか? それならまあ納得か。
しかしラスト付近で流れたレディ・ガガ提供の歌モノは? あれはちょっと弱かった。ほぼ『アナ雪』だった。今からでもケニー・ロギンスのForeverに差し替えてほしい。それとも曲が黒子に徹しているのが偉いということなのか? トップガンにおけるケニー・ロギンスや、その後のエアロスミスやセリーヌ・ディオンのように? それならまあ。
なにしろ第一回アカデミー作品賞は『つばさ』なのだ。言わずと知れたウェルマンのDanger Zoneだ。ウィリアム・A・ウェルマン。西部劇史上の重要作『牛泥棒』や苦い余韻を残すギャング映画『民衆の敵』を撮った人である。『つばさ』の冒頭、出征する前の主人公が自動車を自作していたのはトム・クルーズがプロペラ機を整備していたのと呼応するかもしれない。
ウェルマンは苦い余韻を残す物語作家、に留まらない。彼は撮るのだ。この『つばさ』では有名な酒場のシーンはもちろん、空のシーンの撮りっぷりなど、目が離せない。軍事基地のシーンでは空と地上を山脈で区切り、2画面として使うというのが斬新だ。
『つばさ』はサクラ大戦の劇中劇のタイトルになっており、挿入歌の『つばさ』も指折りの名曲だ。そういう意味でも必見である。
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以下はアカデミー歌曲賞の一覧である。
前述のガガの曲が歌曲賞にノミネートされていて驚いた。既に『アナ雪』が歌曲賞を獲っているのにだ。こんな短いスパンで同じ曲が受賞する可能性があるわけで、やはりこれは笑いとしてのノミネートではないか。
よく見たら『タイタニック』のセリーヌ・ディオンも受賞している。『アルマゲドン』のエアロスミスは「アカデミー賞の歌曲賞とゴールデンラズベリー賞の最低主題歌賞に同時ノミネートされる珍事となった」そうだ。
オリジナル『トップガン』は挿入歌のベルリン&ジョルジオ・モロダー『愛は吐息のように』で受賞。これが1986年で、前後を見てみると1982年に『愛と青春の旅だち』があり、時代の空気が伝わってくるようだ。何気にジョルジオ・モロダーが『フラッシュ・ダンス』でも獲っているのが面白い。「被せ」の笑いが既に試行されている。
90年代を迎えたあたりからディズニー映画がやたら強くなってくる。しかし各曲を手掛けたのがエルトン・ジョン、フィル・コリンズ、ランディ・ニューマンなど、水面下で70〜80年代が続いていたかのようなラインナップなのが興味深い。
遡って1939年の『オズの魔法使い』からの『虹の彼方に』は重要である。なんといってもリッチー・ブラックモアズ・レインボーのライヴで流れるアレがこれなのだ。
1952年の『真昼の決闘』も外せない。西部劇史上最重要作の一つであり、音楽は最大のキーマンであるディミトリ・ティオムキンが手掛けている。テックス・リッターの低音を効かせた歌唱が魅力的だ。
1990年代半ばにリッチー・ブラックモアはディープ・パープルを永久に脱退するわけだが、その直接の引き金となったイアン・ギランとの大喧嘩はバンドや関係者に強い印象を残している。両者の睨み合いがいよいよピークを迎えたとき、バンドメンバーは誰からともなく楽屋を退出していった。その様が『真昼の決闘』のようだったと。この証言は映像作品『リッチー・ブラックモア・ストーリー』で見ることができる。
『真昼の決闘』の主題歌はほとんどヴォーカル、アコースティック・ギター、パーカッションのみのシンプルな編成となっている。いずれの音も、独特の籠もったような遠くで鳴っているような音になっていて、この特殊な音質がハマっている。これは歌曲、劇伴の両者を一度に、同じスタジオ同じセッティングでレコーディングしたためではないだろうか。主題歌はシングル・リリースの際に再録されたが、そのクリアな音質からは、オリジナル版にあった魔法は消えている。
西部劇のサントラにおいては、この「音質」がとても重要で、ディミトリ・ティオムキン作品はもちろん、『荒野の七人』メインテーマ冒頭の「グシャッ」とした歪みなど、「これしかない」と思わせる。別の録音、別のテイクは考えられない。
それらはレコーディング芸術の時代である60年代に、マカロニ・ウエスタンの忘れがたい音楽の数々として再来した。その多くを手掛けたエンニオ・モリコーネは2000年代にアカデミー名誉賞を受賞している。「歌曲」ということで言えば、あの『ジャンゴ』を手掛けたルイス・バカロフも忘れがたい。