【こないだビデマでこれ買った】Vol.20 『BLOODY NEW YEAR』(邦題『タイム・ワープ・ゾーン』)を買った
早いもので2023年もいよいよ年の瀬。2019年にコロナ禍に入ってからというものなんだか毎年穏やかじゃない、今年も戦争が続いたり新しく始まったり円安と物価高のダブルパンチで生活苦のレベルが一段と上がったりとまったく波乱の一年だったな、来年こそは世界が平和になって外を歩いていたら8億円ぐらい急にどこからともなく降ってきたりすればいいな・・・などと考えていたらそういえば年末感のあるタイトルのDVDを何ヶ月か前にビデマで買って見ずに放置していたことを思い出した。ということで収納箱から見つけたのが今回の映画BLOODY NEW YEAR、邦題『タイム・ワープ・ゾーン』だった。
こちらのソフトはレーベルがREDEMPTION、REDEMPTIONといえばアラン・ロブ=グリエの薫陶を受けたと思しきヌーヴォー・ロマン的ユーロ・トラッシュ&アート・エロス、そして倦怠ホラーの巨匠ジャン・ローランの作品をよく出していたところというイメージで、『猟奇殺人の夜』のラストでうっかり涙してしまって以来ローラン作品のそれほど熱心ではないファンとなった俺は、てっきりローラン関連の映画かと思ってこのソフトを買ったのだが、パッケージをよく見るとローランの名前はどこにもなく、監督名はノーマン・J・ウォーレン。エッ。思わず二度見したとでも書けばネットスラング的誇張表現だが、どうしてローラン作品を大量リリースしていた格調高い(気がする)レーベルがノーマン・J・ウォーレンの映画を・・・と面食らってしまった。
おそらく日本ではパチモノ『エイリアン』の『悪魔の受胎』の監督として知られていると思われるウォーレンはイギリスのジャンル映画監督。その得意とするところは趣向を凝らしたアナログ特撮で、実は『悪魔の受胎』を数年前に映画館で見た際にはさほど面白い映画とは思えなかったのだが、数ヶ月前に初期作品『ギロチノイド』(原題TERROR)を見たら評価一変、こんなに面白い映画を撮る監督だったのかと驚いた。この『ギロチノイド』、ストーリーはまぁ大したことがないのだが、『サスペリア』の影響を受けたらしい毒々しい原色照明の多用や、送風機を用いて大量の紙片をばらまく怪奇現象演出など、単純ではあるが手を変え品を変えの楽しい画作りの連続。鈴木清順の浪漫三部作をチープ&キッチュにしたようなテイストと言えば伝わるだろうか。『悪魔の受胎』はそうしたウォーレン的な画作りの比較的抑制された、おそらくウォーレン映画の中ではつまらない部類に入る作品だったのだろう。まるで『悪魔の受胎』がウォーレンの代表作であるかのように扱われてしまっている日本の状況が悲しくなるが、それはさておき、作品の方向性からいってローラン映画の真逆といっていいウォーレン映画がどうしてREDEMPTIONから出ているのだろう。その不思議は映画を見たら少なくとも三倍ぐらいには膨らんだ。
筋立ては単純。海沿いの遊園地で遊んでいたヤンチャ若造たちが地元の不良とケンカになって流れで海へ脱出、ボートが辿り着いたのはどこにでもあるような小さな島だった。まだ寒い季節ではないらしいが水に濡れたのでとりあえず暖を取ろうと森の中に一軒だけ建っている小さなホテルに入ると、奇妙なことにそこは大晦日パーティの飾りつけでいっぱい、ホールの壁にはサヨナラ1959年ウェルカム1960年の文字がある。人は見当たらないが清掃は行き届いているので廃墟ではないようだ。いったいここはなんなのだろうと思いながらもズケズケと勝手に上がり込んでベッドでイチャついたりする若造たち。だかそのホテルと島には恐るべき秘密があったのだ。
どうせ古い映画なので即座にネタバレしてしまうが恐るべき秘密とはここがバミューダ・トライアングルのような時空の乱れた場であったということ。1959年の大晦日、ここで年越しパーティを開いていた1959年版の若造たちは突如として開いた時空の狭間に飲まれてしまい、以来過去も未来もなく死ぬこともできずに(死んでも逆再生で復活する)半分幽霊半分ゾンビみたいな感じでこのホテルを彷徨っているらしい。だがそんな設定はどうでもよかった。この映画の見所はなんといってもシュールな恐怖描写の雨嵐、とにかくまったく意味のわからない怪現象が若造たちを襲って襲って襲いまくるのだ。
物置小屋に入れば意思を持った底引き網が蛇のように絡みつき、階段の手すりに掴まれば口を開いた手すりに食われ、食うといえば調理場にある大鍋も人を食ってゲップする、映写ルームで映画を見ていれば(その作品チョイスが透明脳みそ虫が襲ってくるカルトホラー『顔のない悪魔』というのが渋い)スクリーンの中からミイラみたいのが出てきて羽交い締めにされ、エレベーターに乗れば行き先階のボタンがマシュマロになったのちに壁に吸い込まれて『スターウォーズ エピソードⅤ』のハン・ソロ石版みたいになってしまう。なぜか島までやってきた遊園地のオッサンが正体を隠した1959年の若造の腹を殴ればケンシロウみたいに貫通して若造突然ミイラ顔に変貌、階段を上ったら急に二階の窓を突き破ってオッサンが飛び込んでくる、扉を開けたら通路があるはずが崖になっていて落ちそうになる、幽霊ゾンビの頭をバットでぶん殴ると『スキュナーズ』もかくやの大爆発!
時空の乱れとかいう説明が何一つ説明になっていないが、これだけ無茶苦茶なら下手に筋を通すより通さない方が面白いからいい。怪現象は主に逆再生や二重露光といったプリミティブな手法で撮られており、いかにも金がかかっていない風だが、これこそが映画職人の創意工夫というもの、限られた予算の中で最大限の見せ場を観客に提供しようとする姿勢は心憎いし、それにこうしたアナログ特撮の数々はCGにはない愛嬌があって愉しい。1959年の大晦日パーティと現代の遊園地の場面から始まるだけあって映画全体がお祭り騒ぎ、安いガイコツや死神が次々と現れる昔ながらのキッチュなオバケ屋敷のようなものだ。それをアメリカ的なホラー・コメディではなく、あくまでもホラーとして演出しているあたりはイギリス映画人の矜持を感じるところで、たとえ内容は子供騙しでもあけすけに「子供騙しですよ~」とは見せないのは、子供騙しを子供騙しと隠さない今のホラー映画からは失われた美点かもしれない。
ホテルに囚われた亡霊たちという設定だけ取り出せば『シャイニング』のパクリのような気もしないでもない、いやかなりする、むしろ絶対にそうだと思う・・・というこの『タイム・ワープ・ゾーン』ことBLOODY NEW YEARだが、結果的に出来上がったのはオリジナルとは似ても似つかないなんとも愉快な見世物映画。なにがなんだかわからなくて色々とどうでもよくなってくるので、BLOODY NEW YEARとはなかなか粋なネーミング、年忘れ、もしくは新年のお祝いに相応しい映画じゃないかと思う。REDEMPTION盤DVDは画質はVHSで特典もなかったので、諸々積んでの国内盤Blu-rayリリースを切に希望!