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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.49 『Hundreds of Beavers』を買った

ビデマの入り口にはアルコール消毒液が置かれているが、いつ頃からかそこに北陸銘菓「ビーバー」のミニチャームが引っかけられている。このビーバーというのは袋スナックのおかきで、おかきの形がビーバーの歯を連想させることからこの名前となりビーバーのマスコットキャラが作られた・・・というのはまぁどうでもいい話なわけですが、なぜビーバーなのか?という謎が先日氷解した。ビデマ店主さんによればHundreds of Beaversというおっさん一匹と数百匹のビーバー軍団が戦う映画のソフトが半年で100枚売り上げるほどの異例のヒット商品となり、この映画に惚れ込んだお客さんがポップとかを自作したりして持ってきてくれるらしい。たぶん消毒液のビーバーチャームも映画にちなんで北陸と縁のあるお客さんがくれたんだろう。

・・・なんだそれは!いったいビデマに何が起こっているのか!?このHundreds of Beavers、とにかく大人気で入荷しても入荷しても売れてしまうので供給が追いつかないというが、いくらビデマが映画マニア御用達ショップとはいえ今時そんなことが映画ソフトで起こるというのはにわかには信じがたい話。「なにしろ面白い!」と店主さんも太鼓判を押していたが、ビーバーとおっさんが戦う映画がそこまでバカウケするほど面白いとも思えないのだが・・・ということでたいへん気になっていたこのソフト、このあいだようやく買えたので、さっそくレッツ・ビーバーである。

Hundreds of BeaversのBlu-rayカバー
ジャケットが既にたのしそう

なにはともあれまずはこの買ってきたBlu-rayジャケットを見ていただきたい。ワンピースのチョッパーみたいな帽子をかぶったオッサンが数百匹の武装二足歩行ビーバーに追われているわけだが、この時点でもうおもしろい。そして映画ももちろんすげーおもしろかった・・・!

あははこれは実写版のルーニー・テューンズだね。時は19世紀、アラスカと思われる雪山でリンゴ酒を作ってウハウハだったマッチョおっさんがビーバーにいろいろ齧られた結果すべてが崩壊、家無しの無一文となって極寒の雪山に放り出される。それでマッチョオッサンはとにかくとにかくまずは食い物を確保しようといろんな罠を作ってウサギ(※着ぐるみ)をハントしようとするのだが、これが雪をデカいニンジンの形に固めてウサギが近づいてきたところでその上に雪ニンジンを落とすとか、ルーニー・テューンズでワイリー・コヨーテがロードランナーにやるやつなのだ。コヨーテは野生動物にしては驚くべき超知性で数々の天才的な罠を作っていくわけだがそれは必ず失敗してコヨーテ自身が痛い目を見ることになる。マッチョオッサンもそれを踏襲して作ったそばから罠に痛い目に遭わされたりして全然ウサギを捕獲できないってわけ。

そのスラップスティック・ギャグがサイコーに面白いのだがHundreds of Beaversの圧倒的なオリジナリティと魅力は実はべつのところにある。とにかくこの映画、既成の映画文法というものがまったくといっていいほど通じない。切り貼りアニメやCGアニメやパペットまでミックスした映像手法はもちろんのこと、出てくる動物たちがすべて着ぐるみというテレビコントの手法は前代未聞かもしれないし、シナリオも編集もふつうの映画とはまったく違ってまるでオープンワールドゲームのようなのだ。Hundreds of Beaversというが実はビーバーが本格的に登場するのは映画の後半。このタイトルにして前半45分はウサギ(着ぐるみ)やアライグマ(着ぐるみ)やオオカミ(着ぐるみ)とマッチョおじさんが雪原の死闘(見た目的にはオッサンと着ぐるみの人が遊んでるだけ)を繰り広げるだけなのだからなんとも大胆な映画だ。

数々の強敵を倒してレベルアップし装備も豊かになったマッチョおじさんがついにラスボス、というかラストステージたるビーバー帝国に潜入する後半はビーバー版のメタルギアソリッド&がんばれゴエモンと言えば伝わる人には伝わるだろうが伝わらない人にはなんのこっちゃわからないだろう。もうここからは爆笑の連続。だが単に笑えるだけではない。007もかくやの大しっちゃかめっちゃかスーパーアクションが炸裂し、絶対に誰も予測できないまさかの伏線がSF的大スケールに飛躍する!

こんな映画はほんとうに見たことがないのだが、あえて言うならモンティ・パイソンの映画や初期のテリー・ギリアム作品に通じるものはあったかもしれない。膨大な量の素っ頓狂なアイデア、ギャグ、イマジネーションがのべつまくなしに詰め込まれ、見る者誰もをナンセンスが支配するビーバー帝国に強制的に引きずり込むという点で、これはモンティ・パイソン映画や初期のテリー・ギリアム作品のような本質的な意味でのファンタジー映画なのだ。

サイレント映画のスタイルなので意味のある台詞はほとんどゼロ、多少の下ネタはあるとはいえエロとかグロとかはない(ウサギ等を捌くシーンもあるが内臓はすべてぬいぐるみ)、ということで人を選ばずおそらく誰でも楽しめること請け合いのHundreds of Beavers、なるほど、これはビデマで100枚売れますね!ちなみにこの映画、じつはひっそりと2022年のゆうばりファンタスティック映画祭に出品され受賞しているらしい。ここまで独創的な映画だと売り方が難しいというのもわかるが、既に日本での映画祭上映実績があるのなら、ぜひともどこかの配給会社さんに一般公開してもらいたいものです。なにしろ面白いからね、いや本当に。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com