MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

特集

【特集・イタリアンホラー 鮮血と腐肉の美学】メモれ!コピれ!メイクマネー!パクリ系イタホラ寄せ集め!

まぁイタホラも時期によってだいぶ傾向が違うわけですけれどもその昔マリオ・バーヴァがいた頃からネクロストームが血肉をまき散らしている現在(なのか?)に至るまで共通していると思われるものがあって、それはブリコラージュ志向ということです。ブリコラージュというのは高等教育修了者なら誰もが名前だけ知っている人として有名なクロード・レヴィ=ストロースが用いた概念で一から何かを作り上げるのではなくあり合わせのものから何かを作り上げること。カレーを作るためにスーパーで具材をたくさん買ってくるのがブリじゃないものづくりで、冷蔵庫にある食材をとりあえず全部鍋にぶっ込んでみてカレーっぽい何かにするのがブリコラものづくり。イタリア映画界はホラーに限らずこのブリコラで映画を作るのがひじょうに巧い。そしてブリコラで作ったものは闇鍋の中で想定外の化学反応を起こしたりして意外とめっちゃ美味かったりするのです。

ということでパッと思いついたパクリ系イタホラを雑然と並べてみよう。巨匠フルチの『サンゲリア』は原題が大胆不敵にも“ZOMBI 2”、こちらも巨匠ロメロの『ゾンビ』は原題“Dawn Of The Dead”だがイタリアでは“ZOMBI”タイトルで公開されたようで、その二匹目のドジョウをブルドーザーとかで丸ごとがっぽり捕獲しようとして当然本家には無許可でこのイタリア語タイトルに。国外に輸出された際の『サンゲリア』英語題は“ZOMBIE”なので紛らわしいことこの上なく、更にそこから派生して“ZOMBIE 5”とかまで今までに作られているが、言うまでもなく1~5までの各作に内容的な関連性はないっていうか作ってるところも別なのでそもそもシリーズではないし“ZOMBIE 5”こと『キリングバード』はゾンビものではなくなんとなくゾンビっぽい見た目の幽霊も出る幽霊屋敷ものである。いったい何を信じればいいんだ。

完全なるパクリ企画なのにルチオ・フルチの手腕によって『サンゲリア』は『ゾンビ』とはまったく異なるゾンビ映画のクラシックとなったが(『ジョーズ』をパクったゾンビとサメの格闘はフルチが撮るのを嫌がったので別の人が撮ったらしい)『ゾンビ』をパクったのに『ゾンビ』とはまったく異なる感触を持つ映画となったのはイタホラ界のパクリ帝王ブルーノ・マッティによるカルト作『ヘル・オブ・ザ・リビングデッド』。許可はちゃんと取ったというが許可を与える側の権利意識もボロボロな当時のイタリアなので『ゾンビ』に使用されたゴブリンの楽曲をそのまま使用、主人公はもちろんテレビリポーターとSWAT隊員という潔いまでのパクリっぷりにリポーターも開いた口が塞がらない(※そういうラスト)。しかしパクるといっても『ゾンビ』は当時のホラーとしてはまぁまぁの大作なのでパクリ上等の安映画のことパクるにも限度がある。そのため空いた間を『食人族』のパクリとかで埋めているが人食い場面を作るのにも金がかかるので適当に半裸の格好をさせた人とリポーターをまったり交流され、それでも空いた間は誰もいない民家をゾンビ襲撃後という設定にして巡らせることで埋めるという・・・その結果、虚無すぎて最高な一本になっているのだからイタホラには夢がある。

その後もヒットした映画を節操なくパクリ続けたマッティは2007年に『ゾンビ 2009』を世に送り出しているがこの映画の主なパクリ元は2007年にもなって『エイリアン2』。もはや流行に乗ってすらもいないのでここまで来ると立派な作風だしオリジナルな作品だろう。『エイリアン』をパクったイタホラとえばその翌年1980年に早速公開された『エイリアンドローム』。パクリは明白だがしかし、『エイリアン』に出てくるエイリアンの卵をパクった『エイリアンドローム』の卵は触ると爆発してその飛散物に触れると人体まで内蔵から爆発!というオリジナル設定があった。バカすぎる。だが、顔に張りついてから次の段階に移るまでが長くなかなか面白い場面にならないオリジナルに比べれば『エイリアンドローム』の卵は出てきてすぐに面白くなってくれるので、面白の加速度でいえばこちらの方が上だ。ただ面白さの最高速度は『エイリアン』に三倍ぐらい突き放されているが。

流行ったジャンル映画は後先考えずとりあえずパクるのが70~80年代イタホラの流儀であるから1975年『ジョーズ』が大ヒットを記録すると1977年には『ジョーズ』をスケールダウンさせた『テンタクルズ』が公開された。向こうがサメならこっちはタコだというよくわからないイタリアンチョイスが味わい深いがこのタコが画面に出てくるまでがいや長い長い、一人また一人と海へと消えていくというあたり『ジョーズ』以外の何物でもないのだがとりあえず背ビレは出してくれた『ジョーズ』と違ってこっちはタコだから出すものがない、よって絵的には海辺に立ってた人が次の瞬間には消えてるみたいな感じになる。そんな、不条理劇じゃないんだから。でもこれもリアルタイムで見た人にとっては結構思い出の一本になってるみたいすね。

『エクソシスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』などが流行るとそれに対してイタホラ界が出してきた作例が『レディ・イポリタの恋人/夢魔』と『デアボリカ』。これ、『デアボリカ』は大好きな映画だけど『レディ・イポリタの恋人/夢魔』は見たことないんだよなぁ。最近はどうか知らないがこの映画、中古市場で中々値段が下がらなかった。ブックオフでは比較的よく見かけたが俺の観測した限りでは3000円を下回ることはなかったんじゃないかと思う。パクリといっても『レディ・イポリタの恋人/夢魔』はわりかし格調高い本格派のオカルト映画のようで、そこらへんブリコラ大国イタリアの面目躍如、ちょっとぐらいパクったって職人たちが見事な腕前でオリジナルな芸術品に仕立て上げてしまうんである。

イタリアの職人力が光るパクリイタホラといえば『ザ・トレイン』、これは悪魔が列車に取り憑いたら暴走してたいへんだという幼稚園児のお絵かきみたいな発想に基づく『カサンドラ・クロス』などの暴走列車もの×『エクソシスト』とかのオカルトものの映画だが、他の映画のオープンセットを流用している気配が霧ともども濃厚な邪教村の雰囲気が本格ゴシックの風格で、列車が悪魔に憑依されてからも脱線して沼地を爆走し始めるとか斜め方向からのダイナミックな面白が尽きない。映画は何を作るかではなくどう作るかが問題ということを立証する裁判があればぜひ原告側にこの映画を証拠として提出してもらいたいと思う。

ややホラーからは逸れてしまうが近々待望のBlu-ray国内盤が出るらしいということで触れておきたいのは『未来帝国ローマ』。未来のコロッセオで未来戦士たちが命がけの闘いに身を投じる内容とダグラス・トランブル風ではあるがミニチュア丸出しの都市夜景をフィーチャーしている点からすれば『ブレードランナー』と『バトルランナー』をランナー繋がりだからと一緒にパクったのか・・・と思いきや『未来帝国ローマ』の公開は『ブレードランナー』公開の2年後1984年でシュワルツェネッガーの『バトルランナー』は1987年公開!『ブレードランナー』をパクったのは間違いないとしても『バトルランナー』に関してはむしろこっちのほうが早かった!さすがはインタビュー映画『フルチトークス』で私の映画にはすべてオリジナルの要素があると豪語していたフルチである。ちなみにそのインタビューの中でまぁあれと比較されるのはわかるけどと暗にパクリを認めていたのが超能力少女が自分をいじめた生徒たちに復讐する『怒霊界エニグマ』。フルチのパクリ映画としては『フラッシュダンス』のハイレグダンスをパクってジャッロ映画に仕立て上げた『マーダーロック』も外せない。これは映像美もさることながらミステリーとしてもまぁまぁ面白く見られるところにフルチの矜持を感じる地味だが優良なジャッロだ。エンニオ・モリコーネの甘美なテーマ曲が有名なジャッロ『タランチュラ』をちょっとパクっているような気もするが。

ホラー映画監督としてのフルチの全盛期を支えた脚本家夫婦ダルダーノ・サケッティ&エリザ・ブリガンティが『マッドマックス』をパクってシナリオを書いた『マッドライダー』はジャンル的にはSFだが改造車主観で餌食を追い詰める描写にまるで『ザ・カー』のようなホラー味があるのがイタリアン、ジャンルがどうとかイタホラ職人たちはあまり気にしないので『オーメン』と『未知との遭遇』をパクった『ザ・ビジター』というものもある。繋がらんだろその二つ!と思った人は面白いのでぜひ見てほしい、繋がってないけど成立はしてるから。『デアボリカ』の名盤サントラを手掛けたフランコ・ミカリッツィがこちらでもハッタリを効かせまくったグルーヴィな音を鳴らしているのもポイント高し。

それにしても、ここまで来ると異ジャンルのヒット作をパクってどうホラーにトランスフォームさせるかという知的遊戯か現代アートのように思えてくる。その意味でのイタホラの極北はイタホラ界のゲテモノ帝王ジョー・ダマト監督・脚本の『ゾンビ’99』。99とあるが1999年の映画ではなく日本でビデオがリリースされたのがその頃というだけで、実際は1979年の映画、ということでなんの映画をパクったのかというと・・・その主演ラウラ・ジェムサーにある。このインドネシア出身の女優さんはエマニエルの芸名(!)で売り出されており、その代表作というかそのためにエマニエルと名付けられた作品が『エマニエル夫人』をパクったイタリアンエロ映画『愛のエマニエル』。ということでイタリア男が変な島に行ってみたらエマニエル演じるエロい女がいて性の奥深さを知ると同時に最後のほうでちょっとだけゾンビに襲われる『ゾンビ’99』、パクリ映画を更にパクってその上に腐乱ゾンビをぶっかけて強引にホラーに仕立て上げた名古屋のカルト喫茶マウンテンもかくやのコラボレーションが炸裂した一本なのであった。ちなみにダマトは1977年にもラウラ・ジェムサー主演で『カニバル/世界最後の人喰い族』(『食人族』の原型になったやつ)をパクった『猟奇変態地獄』というすごい邦題の映画をぶっ放しており・・・もうついていけないよ!

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Twitter→@eiganiwaka