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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.29 『The Toolbox Murders』(1978)を買った

トビー・フーパー監督作の中で『ツールボックス・マーダー』を高く評価する人はあまりいないのではないかと思われるが、さすがに『悪魔のいけにえ』『悪魔のいけにえ2』『スポンティニアス・コンバッション』『スペース・バンパイア』など往年の傑作のテンションには遠く及ばないものの、個人的にはよくデザインされたゼロ年代スラッシャーの傑作の一つとしてこの映画、かなり好きだったりする。好きなのでそのオリジナルとくればやはり気になるところ。ということで今回ビデマで買ってみたのは日本未公開の『ツールボックス・マーダー』オリジナル版The Toolbox Murders(1978)のDVDなのだが・・・いやはや見始めたら驚いた、フーパー版ともう、もう、全然違う・・・!工具を使って殺す以外の共通項がないというぐらいに何から何まで別物の映画なのだった。

フーパー版の『ツールボックス・マーダー』はロサンゼルスのアパートが実は『サスペリア』のバレエ学校みたいなオカルト物件で壁の裏側には工具箱殺人管理人の棲まう秘密空間がある(殺しをしてない時は工具でこっそり建物を補修しているので人を殺す以外は真面目な管理人である)みたいな感じのストーリーだが、このオリジナル版は近い作品といったらバート・I・ゴードン畢生の作『マッドボンバー』で、娘を事故により失ったことで狂った軍服男が工具箱で性的に放縦な若い女たちを殺して回るというのが序盤の展開、その後は視点をこの事件を捜査する刑事側や近所の若いあんちゃんたちへと移して犯人探しのミステリーが始まり、終盤は誘拐した若い女を自分の娘として育てようとする狂った軍服男のサイコスリラー的な展開へと至るというわけでとにかくホントに共通点が工具箱で人を殺すところしかない。

この映画がアメリカで公開されたの1978年、ウィキペディアを見ると製作は1977年に始まったというからこれはジョン・カーペンターの『ハロウィン』公開の前年であり、後にアメリカン・ホラーの花形となるスラッシャー映画は未だジャンルとして形が定まっていない(『ハロウィン』にはスラッシャー映画のほぼすべてが揃っているが、模倣作が雨後の竹の子の如く現れるのは数年経ってのこと)。その時代にあって工具で頭とかお腹とかに穴をぶち開けて血まみれにするこの映画は今となってはゴア描写が控え見に見えるものの、風呂場でオナニーした後に襲われて秘部丸出しの全裸で殺人鬼と攻防を繰り広げるエロ&バイオレンス描写もあり(こちらは今でもなかなか迫力のある描写)、当時としてはセンセーショナルだったことは想像に難くない。B級ホラーマニアのスティーヴン・キングも衝撃を受けたというこの血まみれ映画のカルト作をアメリカン・ホラーの帝王トビー・フーパーがリメイクというのもまぁ気持ちとしてはわからなくないし、そもそもそのフーパーによる『悪魔のいけにえ』の2匹目のドジョウとして開発が始まったのがこの映画だというから、これはもうフーパーがやるしかないと感じさせるのだが、どうしてそれがあの『サスペリア』オマージュ作としか思えない『ツールボックス・マーダー』になったのか・・・大いに気になるところだが、まぁしかし今回買ったソフトはあくまでもThe Toolbox Murdersなので、そちらの話を続けることにしよう。

前述の通りスラッシャーがジャンルとして定着する以前の作であるこの映画は序盤に残酷な殺人描写があって以降はとくに面白くないミステリーへと移行する点でジャッロ映画的でもあり、『テラートレイン』や『プロムナイト』といったカナダ産のミステリー型スラッシャー映画的でもある。工具殺人といえば『ドリラー・キラー』だよな、パクリだろうと思ったら『ドリラー・キラー』は公開が1979年。あれ、The Toolbox Murdersの方が早いじゃないか!こう考えてみれば実際に影響を与えたかどうかはともかくも、日本でも公開されているスラッシャー・ジャンルの定番作の数々に先駆けた作品となっているのだから、なぜ今まで(というか今でも)埋もれたままになっているのかよくわからない感じだ。

言うまでもなく『悪魔のいけにえ』の二番煎じとして作られたこの低予算の心ない映画をその地位に押し上げたのは序盤の工具殺人シークエンスのおかげだが、殺人軍服男の10分くらいある(長いっ!)心情吐露から始まる第三幕のサイコスリラーパートも、よくわからない理由で殺人軍服男が急にサイコマンに豹変した甥と殺し合って死ぬ雑な展開がかえって物語の異常さを高めており、「この事件は実際の事件を映像化したものです」とウソのテロップが出るラストも含めてなかなか荒んだ気分にさせられて面白い。このへん、作ってる側はそんなもん何も考えていない可能性があるが、それでもあえて言えば、家族を守るためにという理由になってなさすぎる理由で後先考えずに人を殺しちゃうこの殺人軍服男と甥の姿からは『マッド・ボンバー』同様に壊れたアメリカン・ファミリーのイメージが立ち上がり、性的に解放されたヒッピー・ムーブメント以降の世代のチャンネーたちが軍服男の工具殺人の犠牲になるというあたりからも、何か時代の抱える不安の空気や分断の状況を切り取ったような風刺性を感じなくもない。序盤の殺人シークエンスに漂うドライでインモラルな空気はヤバイもんを見てる感が強く素敵だが、決してそれだけの映画というわけでもないのだ。

今回買ったDVDはBLUR UNDERGROUNDから2002年にリリースされたもので、BLUR UNDERGROUNDなんて知らないレーベルだし2002年のソフトだから予告編ぐらいしか入ってないだろと思ったら他にプロデューサーと撮影監督と役者(軍服男に監禁されてた女の人)によるコメンタリーと例の全裸でオナニーしてネイルガンで殺されるMarianne Walterのインタビューまで入っていてこれがなかなかの豪華版。とりあえずインタビューだけ見たらこのMarianne Walterという人はそれまで売れてなかったがこの映画をきっかけにペントハウスとかプレイボーイとかのエロ雑誌の乳を出すスターになり、更にそれを足がかりにポルノ出演&製作に乗り出して業界賞を何度かもらい、わりと最近までメイクのスタッフとして現場にも入っていたという。こんな俗悪な映画から生まれるサクセスストーリーもあるもんである。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com