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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.52 『Nighty Night』(1986)を買った

新宿ビデオマーケットさん略してビデマはインディーズのホラー映画に強いソフト屋さんで、自主ホラーが市場として成り立っている欧米のソフトが基本だが、『地獄の血みどろマッスルビルダー』など数は少ないが邦画の自主ホラーもプッシュしてくれるという、そもそも自主でホラーを作る人が本当にものすごく少数派の日本にあって(ジャンル映画の販路がないこともあって日本の自主映画シーンはアート・自己表現の志向が強いのだ)その数少ない人たちのセーフティネットのような場所でもある。

そのビデマさんで目下のところプッシュ中なのがこの『Nighty Night』、ティーンエイジャーの少女たちを主役として異常心理からモンスターまで様々な恐怖を描く、国生浩久監督による1986年の自主オムニバス・ホラー映画だ。なんでもこの映画、ビデマ購入特典として付いていた発掘の経緯を記したブックレットの翻訳によると、自主映画ながら旧文芸座で上映されたこともあるらしいのだが、ながらく散逸されたと思われていたらしい。それがどこかのコレクターが海賊版としてオンラインで販売、今回その権利を正式に買い取ってソフト化されるに至ったらしい。

1980年代の邦画ホラー映画と聞いてみなさんはどんなものを思い浮かべるだろうか。案外、思い浮かばないんじゃないだろうか。1970年代には『エクソシスト』に端を発するオカルトブームに便乗して日本でも推理ものというよりもオカルト映画として松竹で『八つ墓村』が作られたりしていたが、オカルトブームが少なくとも欧米映画界では終焉しスプラッターブームに切り替わった1980年代、どうやら日本映画界はその波に乗りきることができなかったらしく、1983年の『丑三つの村』はこの時代の貴重な邦画スプラッター・ホラーだが成人映画として公開されたし、大手が製作したブロックバスター的な邦画ホラーというのはちょっと思い浮かばない(あえて言えば1988年の『帝都物語』か)

日本といえば怪談映画大国であるにもかかわらず、1980年代の邦画界ではホラーはほとんど死んでしまっていたのだろうか?といえば、実はそうではない。1985年、夢枕獏原作の『餓鬼魂』、楳図かずお原作の『うばわれた心臓』、そして悪名高い疑似スナッフビデオ『ギニーピッグ』の3本が最初期のオリジナル・ビデオ(OV)として発売され、これはいずれもホラーだったが、その翌年には日活ロマンポルノ枠で『処女のはらわた』『美女のはらわた』、OVでは泉谷しげる監督のサイバーパンク・ホラー『デスパウダー』、週刊ヤングジャンプの映像コンテストから生まれた『バイオセラピー』、そして自主映画ではこの『Nighty Night』が発表され、邦画メジャーがホラーから遠ざかっていたこの時期、成人映画やOV、自主映画といった周縁的な領域で邦画ホラーは命脈を保っていたのだ。

日活ロマンポルノは当時の反権力の名残り的な風潮もあってか、わりあい映画雑誌でも取り上げられたが、OVや自主ともなると既存の映画雑誌はどうやら扱いに困っていたようで、国会図書館サーチなどで検索してみてもほとんど取り上げられた形跡はない。そのためこの時代の邦画ホラーの記録は少なく、『Nighty Night』のようにフィルムが散逸してしまったことで、歴史から忘れ去られてしまった作品もあるようだ。ホラーというのはなんだかんだ映画史やアーカイブ事業において軽視されがちなジャンルである。それは多くのホラー映画が使い捨ての商品として制作されているためでもあるが、それもまた映画という複製芸術の一側面と考えれば、1980年代の周縁的な邦画ホラーがあたかも存在しなかったかのように扱われてしまっている現状は、いささか寂しい。

ということで『Nighty Night』はそんな忘れられた80年代邦画ホラーの雰囲気を伝える1本。はっきり言って安い。だって自主映画、それも学生の自主映画なんだから当たり前だ。プロの役者はおそらく1人もいないしロケ地はおそらくすべてスタッフかキャストの家。撮影も脚本も演技もすべて素人である。けれどもそんな中になかなか凝った造型のクリーチャーや、監督かスタッフがプログラミングして作ったと思われるコンピューター画面が登場し、またこの点も興味深いところだが、男臭いというか男しかいない部活臭いところのあった同時代の邦画ホラーに対して、このオムニバスはすべてのエピソードで女性が主人公。この年1986年は少女向けホラー漫画雑誌『ハロウィン』が創刊されたのだが、それと併せて考えれば、ホラーが男の見るものから男も女も見るものへと変化していった時代を証言するものとして、この映画を捉えることもできるかもしれない。

邦画ホラー冬の時代にあってなのか、それとも邦画ホラー冬の時代だからこそなのか、ロードショー公開されることのない周縁的な領域で、様々なホラー好きや映画好きが思い思いのホラー映画を作り、実験を繰り返していたのが1980年代という時代である。『Nighty Night』はその貴重な史料なのだ。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com